「去りゆきし…」


あれは……?
はじめは我が目を疑った。
砂塵の向こうに霞んで見えたのは、まさか……?
が。
段々遠ざかるその背中は、紛れもなく遠い日の己自身。
どうやらこの苦境に駆けつけてくれたものらしい。

おかげで、助かった。

でなければここにいる皆、敵味方を問わず危なかったに違いない。
して、他の者たちは?
みな無事でいてくれるだろうか?

子らや女たちだけでなく、この危険な賭に躊躇なくのった無謀者たち全員の安否を桂は案じた。 もちろん、真選組のことも。たとえこの時限りであろうとも同じ目的の元、万事屋の旗指物に集った仲間には違いないのだから。
闇雲に駆け出そうとして、だが、桂はすぐ踏みとどまった。

去りゆく背中が大丈夫だ、そう言っている気がした。
銀時がいるではないか、と。
そうだ。この世界にはもう一人、在りし日の銀時がいるではないか。
それにー
高杉も。
坂本も。
姿は見えずとも、きっと二人も来てくたに違いない。
そうしていずれも一陣の風のように吹き抜けていったのだろう。
銀時が姿を消してしまうまで、俺たち四人は固い絆で結ばれた同志だったのだから。
なればこそ、あの背中は憂いの影なくあんなにも真っ直ぐなのだ。

射し込み始めた日差しの向こう、薄れゆく背中が完全に消えるまで見送ると、桂はそれきりかつての己たちへ思いを馳せるのをやめた。
目を瞬かせながら、明るくなっていく空を見上げて桂は確信した。

どうやら新たな世界を迎えるべき時が来たらしい。

おれがいて。 高杉がいて、坂本がいる世界。
そして誰よりも、銀時のいる世界を。



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