莫迦に莫迦という奴が莫迦とは言うけど、端から見たらどっちも大莫迦 中篇


せっかく陰ながら友の幸せを願おうと決めたのに。
遠くからそっと見守ろうと、エリザベスと二人で宿替えの相談まで始めていたというのに。
程なくして銀時本人から声をかけられ、桂は少々拍子抜けした。

「なんだ銀時。今日はでぇとをしておらぬのか?それでも、もうあまりおれに構わぬ方が良いぞ」
せっかくできた恋人に気を悪くさせては気の毒だからな。
そう言う桂に、銀時はなぜか嫌そうな表情を見せる。
「れ?どうした、ずい分と浮かぬ顔ではないか。腹でも下したか?」
「…どうもしてねぇよ」
「ならよいが…。そんな不景気な顔をしていると、愛想をつかされてしまうぞ?もっとこう明るくだな…」
「だぁーっ、うっせーよ!ほっといてくれや!」
「む。それもそうだな。人目に付くところでお尋ね者とのんびり話をしているなど今後あってはならん」
では、な。
バイビーと、片手をひょいと挙げ身を翻そうとすると、銀時に腕を掴まれた。
「待てや、莫迦ヅラ!おれがおめぇに話しかけたんだろうが!おれの用件を聞くまえに消えんな!」
「莫迦でもないしヅラでもないが、そうであったな。では話せ銀時。すぐ言え、今言え、とっとと言え、おれは忙しい身だ」
「昼間っからフラフラしてる奴の言うことか。おまえさあ、なんかない訳?」
「なにかとはなんだ?ああ、腹が減っておるのか?なら懐にんまい棒が…」
「誰がそんな話してるよ!黙って聞けや!…おめぇ…なんかこう……寂しい的なもやもやっとするような、なんかないわけ?」
「おれが?どうして?」
「いやいやいや、ここんとこちゃんと考えてみようよ?大事なことだから!な、おめぇ、銀さんに恋人ができた、と思ってるわけでしょ?」
桂はこくりと頷いた。そして「で?」というように小首を傾げて銀時を見つめる。
「だぁかぁらぁ、おれに恋人ができたと思って、おめぇはなんとも感じねぇのーって聞いてんだよ!」
それなら最初からすとれーとにそう聞けばよいのに。銀時なりにおれが傷つかぬよう婉曲に別れ話を切り出そうとしてのことか?
「そうだな。これからは何かと気を遣うだろうし、そうそう気軽に会ったりはできまいよ。当然だが、そう考えると、ちょっと寂しいかもしれんな」
やっと以前のように話ができるようになってすぐだから、さすがに寂しくないと言えば嘘になる。
でも、あの時と違っておれは平気だぞ?
おまえが突然いなくなって、生きているのかも死んでいるのかも判らなかった日々のことを思えば、なんということはない。おまえはこれからもっと幸せになってくれるだろうし、おれも陰ながらその幸せを見守ることができる。生きてさえいればな。
だから、おれは充分幸せだよ。おまえが幸せになることで、おれをも幸せな気持ちにしてくれることだろうよ、ありがたい。
安心させるようにそう言って深々と頭を下げた。
しかし銀時はあーと呻いて頭を掻き、天を仰ぐ。
「だ、だからよ……他になんかないのかよ。浮気したんですけど、オレ」
「貴様、もう、か!」
「そう、もう、だ」
「で、ばれたのか?」
「ばらした、自分で、今」
途切れ途切れに告白しながら桂の反応を試すように見つめる様子がどことなく弱々しい。さすがに悔悛の情がわいているようだ。
だが、莫迦だ。まず、浮気をするのが莫迦だし、それを自らばらすのもどうかと思う。 けれど、こうやって自分をつかまえたのは、きっと相談にのって欲しいからに違いない。罪悪感に苛まれるとは、オレ様体質の銀時にしては珍しいこと。それほど本気なのかと思うとさすがに同情心も湧こうというもの。なら、友として助言してやらねばなるまいよ。

「男女のことを部外者がとやかく言うのはどうかと思うが、貴様、それは人としてどうかと思うぞ?」
「………」
「よりを戻したければこんなところで油を売らず、すぐに誠心誠意謝ることだ」
土下座でも何でもして、とりあえず許して貰えるまで謝り続けろ。急げ、銀時。ことは急を要するぞ!
「っ痛!」
片手で目元を覆った銀時に握られたままの腕が、締め付けられた。
「なんだ、人の話をちゃんと聞かぬか!」
「お前ちょっと、こっち来いや」
「まて、銀時、こういうときは男らしく腹をくくって一人で謝るべきだ!」
おれを連れて行っても援軍にはならんぞ!?

等とギャーギャー言っている間に連れ込み宿に連れ込まれた。
「貴様、よりによってこんなところで白状したのか!?時と場合を弁えろ!」
おれは部屋には入らんからな!貴様の恋人のあられもない姿なんて見る羽目になった日には、申し訳なくて目を潰さなくてはならん。

「れ?」
あくまで男女のもつれ話に巻き込まれていると思い込んでいる桂は、誰も居ない部屋の寝台に放り投げられてから、やっと何かが変だと気付いて焦り始めた。



戻る次へ