※企画頁の「莫迦に莫迦という奴が莫迦とは言うけど、端から見たらどっちも大莫迦」 の銀時視点になります。


視界が捉えたばかりのヅラの姿がすぐに消えた。
どうやらなにか勘違いさせちまったみてぇだ。
まったく、よく見やがれってぇの。
……けど。
この状況、ひょっとしてなかなかおいしくね?



「恋愛とはなにか それは非常に恥ずかしいものである」 前篇



だらけきった万事屋の主人、坂田銀時が大きな幸運を掴んだのはつい先日。
正確には掴みなおした、というべきか。
幼馴染みでもある長年の想い人をもう一度取り戻すことに成功したのだ。
その直前に二人揃って殺されかけたことなんて、それに比べれば吹けば飛ぶようなちっちゃな出来事にすぎない気さえする。もう一人の幼馴染みと訣別したことすらも。
その時負った傷は深く、大きく、おまけに多くて肉体的には未だボロボロではあるけれど、その痛みすらも彼を再び得た代償と思えばむしろもっと痛くてもいいのよ、もっともっと的なことをつい考えてしまい、にやにや笑いが止まらない。
違う意味で痛い、とは思う。自分でも。正直気持ち悪い。が頬が緩み、にやけるのは自分の意志では止められない。
新八や神楽に「薄気味悪い」と汚物でも見るような視線を向けられても気にもならない。むしろ、笑う門にはなんとやら、たとえ薄気味悪い笑いでも、笑いは笑い。その内またいいことあるんじゃね?なんて前向きに考えてしまう。銀時の辞書には”自重”や”反省”同様、”塞翁が馬”なんて言葉は存在しない、した形跡すらない。
あまりの有頂天ぶりに(あんま調子こいてんじゃねーぞ)というチャイナ娘と(誰でもいいです、この人にちょっと痛い目見せてやって下さい)という眼鏡の罵声と呪詛も虚しく、またしても小さな幸運ー楽して儲かる依頼ーまでもが降ってきた。


依頼人を一目見るなり、そのブ厚い化粧じゃ皮膚呼吸なんてできねぇだろ、と暴言を吐いた神楽の頭をパシンと叩く。どうやら 会う早々銀時に秋波を送ってくるのが気に入らないとみた。
が、銀時としては当然悪い気のしようはずもない。
加えて依頼内容は拍子抜けするほど簡単。なのに依頼料は破格。依頼人は妙齢の女性でそこそこの美人さんと三拍子揃ってる。
二つ返事で引き受けて依頼人と現場に向かおうとすると、素知らぬ顔で神楽がついてきた。どうやら気にくわない依頼人を監視する腹づもりらしい。
やれやれだぜ。
そんな神楽にちょっと鼻白んだ様子を見せたものの、依頼人はすぐに銀時にしなだれかかるようにして足取りも軽やかに道行きを楽しんでいる様だ。
神楽が時々、けっ、とか銀ちゃんの浮気者とか呟くのが心臓に悪い。
お仕事だから、これ、お仕事。依頼人の気を悪くしちゃダメでしょ!
そんな銀時の裡なる願いなど届くわけもなく、神楽はブツブツと文句を垂れ続け、あまつさえ「銀ちゃんヅラがいる!」なんて言い出すものだから、 さすがに怒鳴りつけようとした時、今まさに雑踏に紛れようとする桂の後ろ姿が目に入ったのだった。


無事に依頼を終え、しこたま依頼料を手にしてホクホクの銀時は、今や遅しと恋人の出現を待っていた。
「貴様、おれという者がありながら!」なぁんて怒鳴り込んできたら、仕事だったんだからしょーがねぇだろう、と言ってやればいい。
でも、打ちひしがれていたら、ただの誤解だと宥めてやろう。
もしかして、泣いちゃったりして……あー、これはないわ。ない。さすがにそこまで夢見れねぇわ。てか、ひく。
そんな楽しい妄想に耽っていたのに……。

桂は来ない。
うんともすんとも言ってこない。

え、ひょっとしてガン無視ですか?
なんでなんも言ってこねぇの、あいつ。

待つことわずか3日で音を上げた。
あちこち桂を探しながら、情けなくてたまらない。
なんでおれがこんなことしてんの?なんでおめぇが来ないわけ?
ひょっとしておれなんて嫉妬する価値無し?それともおれなんかおめぇ以外に相手してくれる奴がいるわけないと自信満々ですか、このやろー!

悶々としながら、やっと見つけた想い人は開口一番、「なんだ銀時。今日はでぇとをしておらぬのか?それでも、もうあまりおれに構わぬ方が良いぞ」あっけらかんと言い、 「せっかくできた恋人に気を悪くさせては気の毒だからな」したり顔で付け加えやがった!

ちょ、泣いていいかな?


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