「最近香を変えてんだな、ヅラ」


ああまったく、この男ときたら!



「月待ち雲」銀時



「なぜそんなことを聞く?貴様が香に興味があるなど思ってもみなかったぞ、銀時」

「別にぃー。興味がある訳じゃねぇよ。ただ…」

「ただ、なんだ?」


銀時がこんな風に歯切れが悪い時は、なにか禄でもないことに頭を悩ましている時だ。

早く聞いて誤解を解いておかないと、後々厄介なことになるのが目に見えている。

実に面倒くさい男だ。


「それ、なんて香?」

「<花しずめ>だ」

「なんで変えたの?」

「なぜだと思う?」

「おれが聞いてるんでしょ?」

「貴様のことだ、勝手にその理由を考えて、決めつけた挙げ句に拗ねておるのだろうが!」


だから、その愚にもつかない考えを先に聞かせろーと言ってやる。


「…なんか別の匂いを隠す為」


そういう表情に見えかくれしているのは紛れもなく嫉妬の色。


「ほう、貴様にしては慧眼だな。その通りだ」

「ちょっ、マジ?ヅラぁ」

「情けない声を出すな!貴様、なんの匂いだと思っておるのだ?」

「え?」

「隠そうとしていたのはすまなかった。しかしな、せっかくの逢瀬に硝煙や血の匂いをさせるなど無粋であろう?」


おれは銀時の両目が大きく見開かれるのをじっと見守った。

そして、やがて放心したように固まったのを見届けると、 貴様に心配を掛けたくなかったのだーとそっと囁きながら銀時の胸に両手を置いて、そのまましなだれかかった。



「馬鹿ヅラ!」


そう言いながら、銀時のたくましい両の腕がおれをきつく抱擁する。


「すまん」


そう告げると、無言のままで銀時の両手の力が更に強くなったのを感じた。


おれのたった一言で簡単に嫉妬の焔を沈めてしまう、無垢なおまえがひどく愛おしい。