「ほう、今日はいつもの香じゃねぇか」
ああ全く!この男もか?
「月待ち雲」土方
「おれぁ、いつものこの匂いの方が好きだぜ、桂」
「そうか?おれはあれも気に入っておるのだが」
「ありゃ少し香りがきつすぎて、せっかくのおまえの匂いが隠れちまうのが気にいらねぇ」
これのほうがずっといい、おまえの匂いがちゃんとするーそう言いながら、首筋に顔を埋めてくる年下の男。
こういう時、どうしようもなくこの男を愛おしいと思ってしまう自分がいる。
「あれは麝香の匂いが心持ち強いからな」
「麝香?どうりで。おめぇのイメージじゃねぇな」
「そうか?」
「そうさ」
どうイメージと違うのか聞いてみたい気もしたが、やめておく。
この男も、香にはとんと縁がなさそうだ。
「月待ち雲」
「ん?」
「月待ち雲ってんだろ、これはよ」
「…よく知っておるな」
「聞いたんだよ」
誰にーとは聞かずとも解った。
先ほどから埋められたままの男の唇が、そのまま首筋をなで上げ、さも苛立たしげに耳元に赤い印を刻み込んだから。