無惨に刈り取られた髪を見せられて、驚愕することしかできませんでした。

遠くからでも解りましたよ。

あれは間違いなく桂さんのものだって。




「緑なす黒髪の」1 ーエリザベスー



「ありがとうございました、エリザベス先輩」

新八と呼ばれているガキが丁寧に言う。

いつからおれが先輩になったのかは知らんが、こんな時にまで律儀なことだ。


おれは昼間訪れたばかりの万事屋に、桂さんが銀時と呼ぶ男を背負って帰ってきた。


二人がかりでどうにか男を寝かせると、ガキはおれに頭を下げ、礼を言った。

泣きそうになるのを必死に堪えているのが判る震える声で、それでもシッカリと。

正直、おれはこの男を放っておいてでも、あの辻斬りを追いかけたかったのだけれど…。

それでも、血まみれで意識のない男に縋り、必死で名を呼ぶこいつを放っておけなかった。

意識のない者を運ぶには、このガキはまだ小さくて、弱い。


それに、こいつはきっと、この男のことが好きなのだ。

おれが桂さんを好きなように。


そう思ったから。

そして…………



おれはこの男はあまり好きじゃない。

いつも胡散臭そうな目でおれを見るからでも、平気で桂さんに暴力をふるうからでもない。


桂さんが

好きだから



この男を。


でも

だから


この男に何かあったら、桂さんが悲しむから
おれはこいつといっしょに戻ることを選んだ。



男は死んだように眠っている。


桂さんの髪を見せられた時の、あの電光石火の一撃は?

後に続いた一連の激しい闘いの火花は?

この男の顔にその名残は微塵もなく、ただ、静かだ。



けれど、思い知らされた。


この男も


好きなのだ



桂さんを。


同じなんだ


おれと。




男を見ていると、ただでさえやるせない気持ちが増幅していく。


もう、いいだろう。

引き際だ。

おれは男の傍らにじっと座っているガキの肩をちょんちょんと突いて注意を向けさせる。

不思議そうにこちらを見たので、「桂さんの紙入れと髪は頂いていきます」と看板に書いて見せてやった。


ガキは少し躊躇うような素振りで眠る男の顔を見たが、結局おれに頷いて見せ、また丁寧に頭を下げた。




信じたわけじゃありませんよ、桂さん。



でも


こんな髪、持っていても仕方がないじゃないですか。


だから

埋めてしまいましょうね。



これはあなたではなくわたしの墓標。


あなたへ抱いた気持ちとともに、地中深くに眠らせましょう。


それは恋と呼べるほど強いものではなかったにせよ、今となっては抱き続けるには辛すぎる想い。


わたしのかわりに空が泣いてくれてますよ。


さぁ、これでいい。



こんなところでじっとなんてしてられません。


今、行きます。

待ってて下さいね。

だから



生きてて下さいよ


桂さん

絶対に!



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