「ああ、糖分が足りねぇ…」
明けても暮れても同じ繰り言しか言えないマダオめ!と同居人兼従業員の少女に家を追い出されて約半時。
懲りもせずに同じ愚痴を零しながら歩いていると、その元凶がしれっとした顔で向こうから歩いてきた。

……ちょ、一人涼しい顔してむかつくんですけどぉー

甘い言葉〜paroles douces〜


「銀時ではないか、奇遇だな。丁度おまえの所へ行こうとしていたところだ」
「ふーん、そう。で、手に持ってるのなに?なんか甘い匂いがするんですけど」
なぁにが奇遇だ、
おれはここしばらく暇があればこうやっておまえを捜して歩き回ってたっつーの!
「うむ、嵐山に紅葉狩りに行ってきたのでな、土産だ」
嵐山って京都?
え?
京都ってことはその包みは八つ橋に五色豆…ってそういうことじゃなくて…高杉!
高杉んとこに行ったんじゃねぇだろな!
「実に風情があった。もう落葉が始まっていいるにも関わらず、思ったより観光客が多すぎて興ざめだったが、エリザベスもずいぶん喜んでくれてな」
エリザベス?
あれとかよ!
ああ、よかった。
いや、よくねーけど。
でも、自称黒い獣の飼い主さんより遙かに安全かつ健全だな、うん。
「エリザベスだぁ?どんだけ悪目立ちする組み合わせだよ。おまえらの存在が風情ぶちこわしだったよね、きっと」
「む。そんなことを言うのであれば、この土産はやらん」
「いやいやいやいや、冗談だよ、冗談。銀さんなんか安心しちゃって、訳わかんないこと言っちゃっただけだよ」
「何を安心したというのだ?」
「ほらさぁ、おまえも言ったじゃん。もう落葉が始まってるって。だから、銀さんヅラ君のヅラも抜け落ちてないかなぁって」
「ヅラじゃない、桂だ!そもそもヅラは抜け落ちたりせんわ」
「やっぱヅラなんだ、ヅラ君」
「一般論だ!」
叫びとともに投げつけられた包みを上手くキャッチして、早速中を探ってみた。
中に入っていたのは餡に包まれた餅のようで、見るからに糖分補給にもってこい。
さっそくつまもうとしたら、往来でしかも手づかみで食べるな、と叱られる。
おめぇはおれのかぁちゃんですか?
しぶしぶ手を引っ込めると、今度はそっと別の包みを手渡された。
それは、桜の葉に包まれた餅。手を汚さずに喰えたし、味もいい。
けどー
「餡がついてねぇ!中にも入ってねぇよぉ?これじゃただの葉っぱにくるまれた餅だよね」
「うるさい!いい年をした大人が町中で駄々をこねるな。それはもともとおれ用だから餡などついてないわ!」
「おめえの?甘いもの嫌いなのに珍しいじゃねーか」
「うむ。渡月橋近くの、結構有名な店の桜餅だ。せっかくなので二種類とも求めてみた」
「桜餅?これが?そもそも紅葉狩りに行った人が何で桜餅ぃ?」
「坂本が実に美味いと言っておったのでな」
坂本ぉ?
今度は坂本ですかぁ?
「そこで、なんで坂本ぉ?」
あ、とうとう声に出ちまった。
「あいつはああ見えて結構風情を解するのだぞ。もともと嵐山の桜が好きなのだそうでな。いつだったかそんな話をした時に、その餅の話も聞いたのだ」
ちょっと評価が高くね?
馬鹿本のくせに生意気な。

「でな、その時ぜひおまえに食わせてやりたいと思ったのだ」

…なに、なんなの、それ。
さんざん人をやきもきさせといて、それですか。
いつだったか判らないような前に聞いた時、おれに食わせたいと思ったって?
で、それを覚えてて買ってきたって?
それをわざわざ万事屋に届けてくれようとしてたって訳ですか?
あああ、なんかもう。

「銀時?」
顔を上げてられなくなったおれを不思議そうに見つめるおまえの様子が、おれには簡単に想像できる。
もうよっく解りましたから。
今銀さん柄にもなくちょっと照れてますけど、もう少ししたら、今度は別のものでもたっぷり糖分補給をさせてもらいますから!

……だから、もう少しだけ黙って待っててくれ。



※坂本龍馬が嵐山の桜を愛でた、と病院の順番待ちをしている時に読んだ某「サ○イ」に載ってたので、パ○…じゃなくて参考に。

ちなみに同誌によると、西郷隆盛が「清水の桜」、土方歳三が「円山公園」で松平容保が「金戒光明寺」。
われらが?桂小五郎さんは「高瀬川一之船入」だとか。今、幾松があるとこかな。


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