「銀時、貴様、何故ここにいる!」
おいおい、お目覚めの第一声がそれですか。こいつ、寝ぼけてやがる。おれがおめぇの寝顔、どんな気持ちで見てたと思ってるんですか?

続・陽溜まり 前篇

あのまま、ヅラが眠りこけて数時間。外はもう真っ暗だ。
眠ってる桂さんを起こすといけないから、なんて言われ、おれは電気をつけることも許されなかった部屋でじっとてめぇの起きるのを待ってたんですよ?お陰で晩飯も食いっぱぐれた。
あいつら、そんなにヅラと顔あわせるのが気まずかったのかよ!…おれも逃げたいですよ、なんか目を覚まされた途端に居たたまれなくなってきたよ?
もうこうなりゃ自棄だ。先制攻撃あるのみ!うん。
「あれぇ、その言い種は何ですか、ヅラ君?人に夜這いかけといて」
「夜這い、だと?」
「そ。よっく見てみ。ここは万事屋ですよ。電気つけよっか?」
むー、と言いながら、まだ眠たげな目でヅラが周囲を見渡す。
「たしかに…万事屋だな」
「でしょ?」
「で?」
「で、じゃないでしょ。だから、ヅラ君が夜這いに来たの」
まだ納得のいかない風なヅラに考える隙を与えないようにおれはたたみ掛ける。
「おれが?」
「そ」
「あり得ぬ」
ちょ、ひどー。なに、それ。寝ぼけてる癖になんでその点だけそんな辛辣なの!
「でも、ヅラ君が寝てるのはおれの布団でしょ?」
「…だな」
「さぁ、どうしてかな?やっぱ夜這いに来たんでしょ?」
「それは死んでもあり得ぬ!」
おいおい、むしろ銀さんが死にそうですよ。そんなキッパリと全否定ですか。
「なんでよ?なんであり得ないんだよ?」
やべ、涙出そうだわ、おれ。確かにうすっぺらい嘘だけど。口から出任せだったけどよ。
「決まっておるではないか!だいたい貴様、この前おれに……」
ヅラはそう言いかけると、何かに思い当たったらしく突然絶句して、ガバリと効果音のしそうな程勢いよく起き上がった。
やべぇ。結局思い出させちまったか。

「貴様ぁ!よくもぬけぬけと!おれは貴様のせいで入院し、退院してきたばかりではないか!それを無理矢理ここに連れてこられて…挙げ句おれが貴様に夜這いだとぉ?巫山戯るのも大概にするがいい!」
ああ、ばれた。そりゃそっか。思ったより早く頭をすっきりさせちゃいましたね、ヅラの癖に。
ちっ、ギャーギャー騒がれる前に、逆夜這い!とでも言って襲っときゃよかった。
ああ、可哀想な銀さん…。
「誰が可哀想だ、誰が!」
「ちょ、人の心よむの止めてくんない?」
「んなもんよめるか!貴様がべらべら喋べっとるのではないか!」
え?おれ声に出してた?そりゃ…拙い…。
「とにかく、訳もなくいきなり襲いかかってきて怪我を負わせるとはどういう了見だ!説明しろ、説明!」
「や、怪我の責任はあの婦長だからね。ついでにおれらもあの婦長にやられて入院してたからね!」
おれの必死の弁解もヅラの心には届かないようで、さりげに刀を探し始めるような素振りを見せたので、おれは咄嗟に頭を下げた。
「すまねぇ、とにかくあれはおれが悪かった。でもよ、マジで歴とした理由があんだよ、いや、マジで!」
どーだか?といった氷のように冷えた視線を頭頂部に感じながら、おれは頭を下げたままで理由を話し始める。
途中、「なんだと!」だの「巫山戯るな!」などの罵声を浴びせられはしたものの、途中からヅラもすっかり大人しくなっておれの話に耳を傾けてくれるようになった。
こいつとてあの健気なナースの気持ちが解らないほどの唐変木ではない…はず…。きっと…多分…。
「ほぉ、では貴様等の誤解がそもそもの原因だな?」
「ま、そういうこった」
「…まったくキチンと確かめもしないからこういうことになる。よい迷惑だ」
「あのね、確かめろっていうけどよ普通はさ、誰だっておめぇのことだと思うよ?誰があんな」
「あんな?」
やべ、失言だ。目が恐ぇえ。
「や、つまり、その、なんだ、おめぇとあの白ペンギンなら、普通の女の子だったらおめぇに惚れるはずって話だ」
「…貴様にはまだあのエリザベスの愛らしさがわからんとみえる…」
「なんでそこで嘆息すんの?おめぇ、自分よりあいつの方が可愛いって、そう言ってんの?」
「当たり前ではないか!あんな愛らしい生き物とおれなんかを比べるな、エリザベスに失礼だろうが!」
おいおい、そりゃちょっと聞き捨てらんねぇな、ヅラよぉ。


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