「ああ、ほら気を付けねば、爪を削いでしまうぞ?」

「大きなお世話っス!」

「そもそも包丁を握るのにそんな長い爪は邪魔であろうが、たま子どの」

「だぁれがたま子っスか、誰が!あたしはまた子だってさっきから何回言わせれば気が済むんっスか!」

「おなごが股ぐらだの、股ずれだの口にするものではない!」

「その耳、タニシでも詰まってるんっスか!誰もそんなこと言ってないっス!」

「口を動かすのではなく、手を動かせ、手を!」

「さっきからギャーギャーと。あんた、姑気取りっスか!」

「あんたでも姑でもない、桂だ!」


あー、もうイライラする。

こいつ、何でこんなに馬鹿なんだろ。

教えて下さい、晋助様ぁ。



「暮雲春樹」前



確か朝のブラック星座占いでは、あたしは今日は最高にハッピーになる日だったっていうのに。

厄日も厄日、これじゃただの大殺界。


久し振りに船から降り、晋助様のお部屋に梅の花でも飾ろうと花屋になんか寄ったのが運の尽きだった。


銃を向ける暇もなく「よいところで会った」とさらりと言われ、気がついたときには白くてデカイペンギンお化けに抱えられていたなんて、来島また子一生の不覚。


ペンギンもどきはあたしが暴れようが叫ぼうがどこ吹く風で、やっと解放されたのは桂の隠れ家に着いてから。


すとん、とあたしが落とされたのは少し手狭なキッチンで、目の前ではなぜか桂がいそいそと割烹着を身に纏い始めていた。



「…あんた、何やってるんスか?」

「この格好を見てわからんのか?料理の準備に決まっておろうが」


料理?

料理ってまさかあたし?

晋助様の居場所でも吐かせる魂胆か?

ふん、甘いな。

この来島また子、いつでも晋助様の為なら命を捨てる覚悟は出来てる。



「白昼堂々と鬼兵隊の狙撃手を拐かすとはいい度胸っス。けど、お生憎様。晋助様の居所は死んでも言わないっスよ!」

「えーっと、たま子殿はこっちの割烹着を着て貰ってだな…」

「ちょ、人の話聞いてんっスか?」

「人の話を聞いておるのか?この割烹着を早く着んか!」

「てめぇがまず人の話を聞くことを覚えろ!」

「てめぇじゃない、桂だ」


晋助様…本当にこんなのが攘夷の暁なんて言われて一部で持ち上げられてるんっスか?

なんか間違ってんじゃないでしょうか…。



結局、あたしは桂に渡された割烹着を着て包丁を握らされている。

銃を持つのは得意だけれど、刃物系は全然ダメ 。

まず持ち方がなってないと桂に叱られた。

マジでむかつく。

こいつの小姑根性に。


「この大根を1cmの角切りだ」


桂がそう言って5cm程の長さの大根をまな板にのせた。


「あ、あたしに切れって?」

「そうだ。なんのために包丁を渡したと思ってる」

「あたしはまず敵に刃物を持たせるあんたの了見が判らないっス」

「ふん、そんな手つきでおれに切りつけるとでも?大根すら切れそうにないぞ?」


そう言って桂の奴はせせら笑いやがった。

ほんとムカツクっスよ、あんた!


「大根くらい朝飯まえっス!」


そう言って包丁を入れようとしたら、「馬鹿者!」という罵声で邪魔をしてくれた。


「耳元でそんな大声出すなんて、危ないじゃないっスか!」

「驚くのはこっちだ。まず皮を剥かんか!」

「あんた、皮を剥けなんてひとっことも言わなかったっスよね?」

「皮なんて言われなくとも剥くのに決まっておろうが!」

「あー、はいはい、桂剥きでいいっスね」

「言葉を知ってるだけではいかんぞ?ちゃんと出来るのだろうな?」


っとに失礼な奴だ。

けど、こいつには逆らわない方がいい。

何を言っても聞き流せばいいんだとようやくあたしは悟った。


言葉で言っても人の話を聞かない。

たまに返ってくる返事は的外れなものばかり。

まともに相手をする方が馬鹿らしい。

適当にあしらうのが利口ってもんっス。


そう思って、表面上は大人しく大根を手にしたら、また邪魔が入った。


「皮を剥くだの、桂剥きだの昼間っからなにエロイこと言ってんの?」


晋助様仰るところの”銀時の馬鹿”が馬鹿なことを言いつつ登場。

うざっ。