「THE OEDO」前



「はじまりますわよ、あなた、あなた!」

「おいおい、そう急かすもんじゃないよ。それは小太郎が送ってきたDVDなんだろう?出来たら後にしてもらえんかね。わたしは9時からサスペンスドラマが見たいんだよ」

「なに仰ってるんですか、可愛い小太郎ちゃんが見られるんですよ!それにこれが終わったら私が韓流ドラマを見るんですからね、それが始まるまでに見てしまいたいんですのよ。 ほぉら、太郎(3代目)だって、もうTVの前に陣取ってますわよ!あ、もう始まりますわよ!そうだ、あなたついでにおみかんを持ってきて下さいな。あとお茶と」

「やれやれ…急かしているのか用事をいいつけているのか判らないよ」



「まぁ、小太郎ちゃんにモザイクが!これでは見ている甲斐がありませんわねぇ」

「視聴者に気を持たせてるんだろうよ。CMの後にはちゃんと顔を映すさ」

「そうだといいんですけど…。あら、あれ!小太郎ちゃんと一緒に走ってるあの白いの何かしら?ペットかしら」

「わからんねぇ…なにか得体の知れない生き物のようだけどねぇ…」

「またどこかで拾ったのかしら?あの子は小さい頃から犬でも猫でも何でも拾いたがって…」

「そうだねぇ。一度などどこで拾ったのか傷まみれになりながら軍鶏なんか連れ帰ったきたことがあったなぁ」

「そうでしたわねぇ。あの軍鶏どうなったんでしたかしら?」

「小太郎が塾に行っている間にお前が鍋にしてしまったじゃないか」

「そうでしたかしら?」

「そうだよ。小太郎には飼い主が見つかったとか嘘を言って…。またあの子が単純だからお前の言うことを鵜呑みにして、何にも疑わずに鍋をつついてる姿を見て可哀相になったもんだよ」

「また私だけ悪者になさって。あなただって美味い美味いって仰ってたに違いありませんわ!それに、そういう素直なところも小太郎ちゃんの長所の一つじゃないですの!」

「長所も度が過ぎると短所だよ。全くおまえはあの子が素直なのを良いことに幼い頃からあれこれと…」

「そんなことより、あなた、あれ見て!私あの手配書は持ってませんわ!後でオークションをチェックするのを忘れないようにしないと。 新しいバージョンが出たなんて小太郎ちゃんも教えてくれればいいのに…相変わらず照れ屋さんで…」

「なんでわざわざオークションで落札しようとするんだね。小太郎に言えば一枚くらい送ってくれるんじゃないのか?」

「あぁら、あの子は手配書を剥がすような悪い真似はしませんわ。泥棒と一緒ですもの。一枚一枚税金がかかってるんですからね」

「でも、お前がオークションで買おうとしているのは、誰かが盗んだものってことだよ?」

「それが不思議なのよ、あなた。わたしがいつも買っているのは未使用品なんですの」

「え?」

「貼られた形跡のない真っ新な手配書なんですの」

「それって…つまり真選組の誰かが…」

「あまり深く考えてはいけませんわ、あなた。出所が公になったら買えなくなりますもの」

「あ、ああ…(いいのか、それで?)…」



「おや、この花野アナという子は可愛いねぇ」

「そうですかしら。女子アナに求められるのは滑舌とアクセントと常識ですわ」

「華も必要だろうに」

「花野アナ、だからですか?なんてお寒いことを…」

「いやいや、誰もそんなことは言ってないよ」

「どうですかしら…あなたも小太郎ちゃんも変な所が似てるんですもの。あら、もうCMですわ。気を持たせすぎですわよね」



「まぁ、まぁ!やっとCMが終わったのに、まだモザイクがかかったまま」

「公共の電波にお尋ね者が顔を晒すのは拙いんだろう。スポンサー的にも」

「顔なんてとっくにバレてますのにね。色んな手配書が出回ってるくらいですもの。わたし殆ど持ってますのよ、20種類くらいありますわ」

「そりゃそうなんだがね……」

「モザイクがとれましたわ!……あらっ、小太郎ちゃんったら!」

「ほう、あの眼鏡は面白いね。今度忘年会の余興か何かで使わせてもらおうかね、あっ、あんな乱暴に外して。壊れたらどうするんだ」

「あれくらい買えばよろしいじゃないですの。あなたのお小遣いで。ま、あの子ったら、まだ小首を傾げる癖が直ってないのね。可愛いから良いけど」

「可愛いという年でもないだろう、小太郎も」

「だって、あの子は幾つになっても私達の子供なんですもの。白髪頭のお爺ちゃんになっても、あたし達からしたら可愛い坊やですわ」


(や、その頃は私達はとっくに死んでるよ………)


「このラーメン屋のご婦人、綺麗な方ねぇ。小太郎ちゃんが好きそうだわ」

「うーん…少し気が強そうじゃないかね」

「小太郎ちゃんには少しくらい気が強い女性の方がいいですわよ、あなた。それに家庭では女性の方が強いくらいが家庭円満で丁度良いんですのよ」

「そういうものかい?」

「そうですわよ。その点、ウチはまだまだですけどね」

「そ、そうかい?充分だと思うけどね…」

「キャーッ!あの子、あんなにボロボロになって!何があったのかしら?」

「TV如きでそんな大声を出すもんじゃありませんよ。お茶をこぼしてしまったよ。しかし…酷いねぇ、これは…大丈夫なのかね?お店もそうだけど映像的にも」

「あなたは何の心配をしてらっしゃるの!」

「大丈夫だよ、実際あの子に何かあったらそれこそ放映が…」

「あらっ、あなた見て下さいな!」

「なんだね?おまえは人の話を遮って…」

「あの真選組の男の子、とっても可愛いじゃありませんか。小太郎ちゃんとはまた違うタイプ。あの子もこれくらいの時はまるっきり女の子みたいで……」

「………官憲に要求されるのは外見ではなくて、犯罪者の逮捕や防犯だろうに」

「あなた!じゃあ、あなたは小太郎ちゃんにさっさと捕まれって仰るんですか!」

「いや、そうじゃないよ……」

「じゃぁ、なんですの?まったく、血の繋がった親の発言とは思えませんことよ!」

「誤解させたのならすまないが、そういうつもりで言ったんじゃないんだよ、本当だよ……」

「まぁ、いいですわ。お店のご主人に叱られて足止めされるようじゃ小太郎ちゃんを捕まえる事なんてできっこないでしょうから」

「…そうだよ、そうだとも」

「わざとらしい相槌はその辺で結構ですから、お茶のおかわりをお願いしますわ。CMの間に」

「はいはい、お茶だね(小太郎もCM位カットしてから送ってくれれば良かったんだがねぇ…)」