「THE OEDO」後
「おやおや、すごいねぇ花野アナ。小太郎を軽々と持ち上げたよ」
「小太郎ちゃんはスリムですもの。下手したらあの女子アナの方が体重が重かもしれませんのよ」
「…なんだか棘がある言い方をするねぇ…」
「ああら、ご存じないの?やっぱり男親はダメねぇ。小太郎ちゃん、体重はせいぜい56、7キロなんですのよ」
「それは本当かね?男にしちゃ軽すぎじゃないか…あの子はちゃんと食事をとってるのかねぇ?」
「さぁ、また蕎麦ばっかり食べてるんじゃないかしら。そもそもあなたが武士は粗食でよいなんて躾けたりなさるからですよ」
「あの頃はみんなそうだったじゃないか。そういうお前こそ仕度が楽でいいなんて言って、休みの日ともなれば毎日昼餉は蕎麦だったじゃないか」
「またあなたは悪意のある見方をして。違いますわよ、わたしが蕎麦ばかり食べさせていたんじゃなくて、小太郎ちゃんが蕎麦が好きだからわたしが蕎麦をしょっちゅう作っていただけです!」
「ま、そういうことにしておこうかね。今更鶏が先か玉子が先かなんて言ってても仕方がないし。でも、攘夷志士ともなれば体力もいるだろうからね、、何かちゃんと何か栄養のあるものを送ってやったらどうだい?河豚とか車海老とか」
「小太郎ちゃんかベートーベンかという位引っ越しの回数が多いんですのよ。現住所なんて知りませんわ。もし知ってたとしても伝票に”桂小太郎”って書けと仰るの?」
「あ、ああ確かにそれは拙いね」
「でも、ほら、見て下さいな」
「本当だ…大丈夫そうだね…」
「女子アナを小脇にかかえて走れるんですもの、心配はいらなそうですわ」
「すごいねぇ、小太郎。もしわたしがあんなに走ったりしたら息切れするよ」
「昔からピンポンダッシュやなんやら三人で悪さをして鍛えてありますからね。人間なにが幸いするか判ったもんじゃありませんわ。けれど、40代と20代を比べるなんて図々しいにも程がありますわよ、あなたは」
「…すみません…」
「ま、無礼なことを!」
「え?何がだね?わたしが何か言ったかい?」
「小太郎ちゃんに向かって『女の子に間違えられてー』だなんて」
「実際間違えられてたじゃないか。それのどこが無礼なんだい?君だって女の子みたいに可愛らしいって常々言ってたじゃないか」
「そりゃ、今でも可愛らしいですわよ。でも、そんな風にからかわれて泣き寝入りするような小太郎ちゃんじゃありませんでしたわ!みんな返り討ちにしてましたもの」
「そっちに反応してたのかい…」
「第一、この局は調査不足ですわ。少なくともこういう番組を放映するんだったら手紙だのなんだのよりも、まず実家の両親に予めインタビューしておく位の周到さが欲しいですわよ。そうじゃありませんこと?」
「おいおい、君はお尋ね者の桂小太郎の母親としてTVに映されてもいいって言うのかい?全国放送だよ、これ」
「勿論、平気ですわ。それともなんですの?あなたは小太郎ちゃんの父親であることを恥じてらっしゃるんですか!」
「や、そういう訳じゃないけどだねぇ…」
「そもそも毎日顔をあわせるご近所の奥様方にはとっくにばれてますのよ?今更顔や名前も知らない全国の人にばれた所でどうって事ありませんわ」
「それはそうかもしれないけどねぇ…」
「高杉さんの奥さんだってこの前の井戸端会議の時に『うちの晋助ときたらまだまだやんちゃで困りますわ、オホホホ…』なぁんてサラッと仰ってましたわよ。あなたも少し見習ったら如何です?」
「晋助君がこの世界を塵にかえようといくら頑張っても無理な気がしてきたよ。世間でどんな事件があっても君たちは相変わらず井戸端会議でもしてそうだからね。
…人類が滅亡してもゴキブリだけは生き残るって言われているけど、それは違うね」
「…あなた、何が仰りたいんですの?」
「………女は強いねぇって話だよ」
「まぁ、何を今更。子供を産む度に女は強くなるんですのよ。ご存じなかったんですの?」
「そうかねぇ、もっと前から強かった気がするけどねぇ…」
「いやぁ!小太郎ちゃんが!」
「40過ぎていやぁって言われてもねぇ…それに、小太郎に何かあったらこんなDVDを送ってこれないって言ったのは君じゃないかね」
「安全だって解ってても、ジェットコースターに乗ったら悲鳴を上げてしまうようなものですわ!男の癖に重箱の隅をつつくようなこと仰って!」
「男だの女だのいうのは差別じゃないのかい?」
「それが重箱の隅つつきだって言ってますのよ!興奮状態での失言なんかは聞き流すくらいの度量があなたにはないんですの?」
「…悪かったです…」
「わかればよろしいんですのよ、わかれば。あー、驚いた。あんな高い所から墜ちるんですもの」
「小太郎は小さい頃から高い所は平気だったのかい?」
「何もご存じないんですね、あなたって。小太郎ちゃん、高い所は大得意でしたわよ」
「それってなんとかと煙は…ってやつじゃないのかな…」
「え?なんて仰いましたの?聞こえませんでしたわ」
「気にしないでおくれ独り言だから」
「そ?出来ればもう少し静かに仰って下さいね」
「…気を付けるよ。あーほらほら、やっぱり大丈夫だったよ小太郎。それにしてもあれはいいねぇ。眼鏡よりあっちが欲しくなってきたよ」
「あのパラシュートは小太郎ちゃんの手縫いかしら?」
「好きそうだからね、小太郎はああいうの」
「あなたぁ、攘夷志士って大変ですのね。妙な眼鏡をかけたり、可愛い男の子に追いかけられたり、屋根の上を走って墜ちて…目まぐるしいですわ」
「合間に銀時君とじゃれてね。お前がかいつまんで言うことだけ聞いていると、なんだか妙に気が楽になるねぇ。小太郎のやってることが、子供の頃とかわらない気がしてね」
「でしょう?小太郎ちゃん、きっと毎日楽しくやってるんですわ」
「…みたいだね…」
「ほんと、小太郎ちゃんがこのDVDを送ってきてくれて良かったですわ。楽しそうな暮らしぶりがよく解りましたもの」
「そうだねぇ、見る限り真選組のみなさんにもさほどご迷惑はおかけしてないようだしね」
「…小太郎ちゃんはいい子ですもの」
「うんうん」
「これでゆっくり心静かに韓流ドラマが見られますわ。あなた、おみかん追加、よろしくね」
「はいはい」
ー彼らの見ているDVDでは花野アナの負傷はわからない…。
めでたし、めでたし。
…多分…
桂家の楽しい団らんのひとときでした。
鬼兵隊の最終防波堤はWおかんズ。めちゃ手強い。