「おまえ、坂田じゃないか?坂田銀時!」

「ああ、そういうおめぇは…」


誰だっけ?

見たことあんなぁ。


そうだ、松陽先生んとこで…名前は…

大垣?

松本?

千葉?


「やぁ、懐かしいなぁ。藁にも縋る思いで“万事屋”に依頼に来たんだが、まさかお前がやってたなんて。これで話がしやすくなるよ」


そりゃ、どうも。

でも…おめぇ、名前…何だっけ?



「揺風」1



「それで、どういうご用件なんですか?」


名前を思い出そうと黙って考え込む銀時をフォローするように新八が話を促す。


「おれは今、医者になるために勉強中の身なんだが、親が家業を継げとうるさいんだ」

「家業って乾物屋か何かあるか?」


ナイス、神楽。

そうだよな、こいつ乾物屋の店主とか似合いそうなツラだよな。

でも、乾物屋の息子とかじゃなかったような…。

ダメだ、思い出せねぇ。


「それが、IT関連なんだ」

「アイティーってなにアルか?」

「簡単に言うと情報技術関係だよ。コンピューターとか、インターネットとか」

新八が神楽に教えている。


「じゃ、酢昆布は扱ってないアルな」

「おめぇ、それが目当てか神楽!や、そんな話をしてる場合じゃねぇ。なんでそれがおまえんちの家業なんだよ!あり得なくね?」


あの塾にいたのって、それこそおれみたいなのから高杉みたいな坊ちゃんまでいたけどさ。

でも、ないわ。

IT関連なんてないわ。

時代的に無理がありすぎんだろう!


「親父が一代で築いたんだ。戦争後にね。INIって企業知ってるか?」


だが、先に反応したのは銀時ではなくて新八だ。


「僕、知ってます!お通ちゃんをイメージキャラクターにしたCM流してますよね?」

「そうだよ、よく知ってるね。あそこが親父の会社」


凄いですよ、そうか、あのINIですか、と新八は大興奮だ。

銀時はITなんてよく解らないし、実のところ興味もないが、あのお通をCMに起用出来るということは、よほどの大企業なのだと言うことは解った。


「いいじゃん、IT関連。継げば?花形じゃんか」

「坂田、僕はどうしても医者になりたいんだ」

「銀さん、夢は人それぞれですよ」


大企業っぷりに感動しながらも、汚れなき10代の若者らしい意見を述べてくれる新八君、ありがとう。

でもよ、ITにしろ医者にしろ恵まれてんなぁ、なんか。


「でも、お医者様になる勉強をされてたんなら、今までは好きにさせてもらえてたってことなんですよね?」

「ああ、そうなんだ。けど、先月急に兄貴が死んじゃってね」

「それで、跡継ぎに昇格って訳か?現金だな」

「で、家を継がなくていいように、その家業ってのをぶっ潰せばいいアルか?」

「や、神楽ちゃん、家業ってそう簡単には潰すわけにいかないから。それに依頼内容は最後まで聞こうよ。ね?」


どうもすみません、と新八が大垣?松本?千葉?に頭を下げる。



「お妙に頼んでみるってのでどうだ?」

「銀さん、姉上だともれなく近藤さんがついて来ちゃいますよ。で、真に受けたりしたらややこしいことになりますよ、きっと」

「そうある。姉御は無理ネ。ゴリがついてくるアルョ」

「さっちゃんさんなんかどうです?一応美人ですし、スタイル良さそうじゃないですか」

「あいつかぁ…でもよ、そんな大企業様なんだったら、幕府のお偉いさんとかも来るんじゃねぇか、そのパーティーとやらに?」

「ああ。親父、見栄っ張りだからな」

「じゃ、ダメですね。幕府関連の仕事もするって言ってたから、顔が割れてますよ」


依頼内容を聞いた万事屋三人は、すぐに頭を付き合わせて相談を始めた。

その内容とは、神楽の発想に近いもので、跡継ぎのお披露目パーティーとやらに婚約者として一緒に出席する女性を斡旋して欲しいのだという。

なんでも、お披露目パーティーとはあくまで名目で、その実「お見合い」がセッティングされており、跡継ぎにふさわしい良家の子女が集められているのだと依頼者は言った。


実に羨ましい話じゃねぇか、と銀時は思うのだが、依頼人にしてみれば冗談じゃない、ということらしい。

なんでも片想い中の相手がいるらしくて、その人以外とは結婚なんて考えたくもないし、家も継ぎたくないのだ、と銀時達は必死に訴えられた。


だから、「親父が納得し、他の女性が身をひいてくれるほどの女性を連れて行って、取りあえずは見合いをぶち壊したい」と。家業の方はおいおい話し合うから、と。

どうしたものかーと銀時たちは三人プラス依頼人の四人で、ない知恵を絞った。

彼らが知恵以上に持ち合わせてないのが「よい」人脈だ。


思いつくのはせいぜい新八の姉であるお妙か、銀時に付きまとうくノ一、さっちゃんくらい。

他に知り合いの女なんて…と銀時は考え続ける。


九兵衛君?

無理無理無理、あれは無理!

後は…キャサリン?

違う意味で見合いが壊れるな。

崩壊するわ!

出席者のアイデンティティまで崩壊させかねない衝撃だよ、あれは!


せっかく久し振りの依頼だ、断りたくはない。


けど…と三人はすっかり行き詰まっていた。


「とにかく数時間のパーティーを乗り切れば良いだけですから、その片想いの相手という方に頼むっていうのはダメなんですか?」


おお、新八君、よく気がつきました。


「だからおまえは新一じゃなくて新八ネ。それが出来るくらいならとっくにそうしてるだろうが、考えろよ!」


あー、そうか…。

片想いっていうくらいだから、いきなりそんなん頼めねぇのか…。

まじでヤベぇ。

どん詰まり。


「あー、おれらの周りってろくな女いねぇなぁ」

「男もネ。銀ちゃんを筆頭にマダオばっかりアル」

「類は友を呼ぶっていいますからね」

「ほんとアル」

「おいぃぃぃ!いつの間に銀さんを吊し上げる場になってるんですか?古い馴染みの前でやめてよね、そーゆーの」

「銀ちゃんて昔からこんなだったアルか?」

「ああ、まぁ…こんな感じだったかな…」


こら、てめぇも久し振りに会ったてぇのに、なに簡単に答えてくれてんの?

お前が今のおれの何を知ってるわけ?

おれもおめぇの名前忘れてっけど。


「やっぱり昔から銀さんはこんな風だったんですね」

「そうネ、ヅラ見てたらわかるね、二人ともマダオョ………銀ちゃん!ヅラ、ヅラがいるアル!」

「どこに?」

「違うよ、ヅラを使うネ」

「あのなぁ、神楽。ありゃ、男だろ。それによ、さっきも言ってたろ?パーティーには幕府の高官も来るんだしよぉ…」


とんでもねぇ発想だよ、そりゃ。

あいつ、元テロリスト現指名手配犯だよ!


「坂田、ヅラって、桂か?桂小太郎か?」

「そ、ヅラ小太郎だ。覚えてっか?」

「覚えてるさ、決まってるじゃないか」

「そうだろうなぁ、あんな馬鹿はそうそういねぇもんな」

「…おまえ、まだ桂と付き合ってるのか?」

「や…付き合いっていうか…」

「…あいつ指名手配犯だろう?なのにまだ付き合いがあるのか?」


ああ、そーゆー意味。

変に勘ぐっちまったじゃねぇかよ。


「ああ、まぁな」
「そうか…桂か…」


おい、おい!

何考えてんの?

ちょっ、マジ怖いんだけど。

何考えてんの大垣?松本?千葉?


「いいんじゃないか、桂?昔っから女の子に間違えられてたし」


それを聞いて神楽や新八が吹き出した。

女の子に間違えられてーというのがツボに入ったらしい。

けど、銀時は笑えない。


「だぁかぁら、指名手配犯が幕府高官がいるようなパーティーに出るのは拙いって」

「大丈夫ネ、ヅラ、変装得意アルョ」

「違うー!ヅラのはあれ変装じゃないから、趣味のコスプレだから!」

「でも、あんなので今までバレたことないネ」

「確かに。真選組のみなさんも、気付かないみたいですもんね」


なに、この流れ。

ひょっとして反対してるのおれだけ?


「じゃ、それで決まりアル!」

「や、決まってないよ神楽ちゃん。桂さんがいいって言ってくれるかどうかわかんないじゃないか」


そうだー、そうだね新八君!

ヅラが断るに決まってらぁ。


「大丈夫ね。リーダー命令で言うことをきかすネ。毎日豆パンばっかりだって言ったらヅラはホイホイ言うこときくネ」


神楽は自信満々だ。


……マジでか?