※リクエスト「桂さん女体化」です。
原作の凸凹編をモチーフにしていますが、桂さんが出てないと聞いて全くの未読です。
ところどころどころか、まるっと全部おかしいと思います。
それでも構わないと思われる方のみ、お読み下さい。





「目の毒  気の毒  恋の毒」


「ないわ〜、これはないわ〜」
力ないアルトの声が洩れた。
「そりゃぁよ、百貫デブと化した奴もいれば人間様にまで進化したゴリラだっているよ?」
自分で言って自分で興奮したはじめたらしく叫ぶ声が段々と大きくなっていく。
桂は着衣や発言内容からどう考えても銀時としか思えない、興奮しきった様子の女性の言い分を醒めた面持ちで聞いていた。
それは、とても"子ども"とは思えない落ち着きようで、それがまた銀時の苛立ちに拍車をかけた。
「でもよ、なんでおめえはガキに戻っちゃってんの?なんでそういつも斜め上なんだよ!」
ついには頭を掻きむしらんばかりの勢いで喚き出す始末。
「おなごがそうぎゃんぎゃん騒ぐものではないぞ、銀時」
とてつもなく可愛いらしいソプラノに窘められた銀時は、その声の懐かしさに驚くあまりに多少の落ち着きを取り戻した。
「ヅラぁ……」
「ヅラじゃない、桂だ」
やはりどこまでも可愛らしい声。
目眩がするような既視感に囚われながら屈み込んで小さな両肩に手を置けば、女の掌でもすっぽりと包みこんでしまえるほどに細く、頼りない。
これはこれで可愛くて結構。だ、けれどー
「これじゃ、いいことも悪いこともなぁんも出来ねぇじゃねぇか」
うっかり本音をもらせば、
「斬られたいか、貴様」
"小太郎"が臓腑を抉るような一言を浴びせてきた。
くそ、中の奴は全然可愛くねぇ!


当の銀時をはじめ、周囲の者たちひいては歌舞伎町の住人たちが揃いも揃って違う性別になってしまったことに気付いてからしばらく後、銀時が真っ先に思ったのが桂はどうしてるだろう?だった。
そこに思い至るまでに「しばらく」の時間がかかってしまったのは、元来、銀時がそういった我が身に起こる異変に対して酷く脆いせい。 なんだ、おれだけじゃねぇのか。良かった。良くはねぇけど、とにかく良かったーとなんとか思えるようになるまで少々(?)の時を要したからだ。
もちろん、どうしてるのもこうしてるも、皆が皆、男は女に女は男へと変わっているのだから、桂もそうに違いないだろうとの予想はすぐについた。
あいつならどんだけイイ女になってることか!
つまりは期待MAX・スケベ心MAXで大慌てで駆けつけてきたわけだというのに、 玄関先で大声に呼ばわって現れたのが子どもだったのだから、銀時がガッカリして気の抜けた声を出したのも無理はない。
けれど、予想をキッパリと裏切られ、ふくらませるだけふくらませた期待とスケベ心を持て余す羽目になったという衝撃をどうにかこうにか抑えこんでみれば、今度は往時の ままの桂の姿に、心がざわつき始める。
なにしろ桂ときたら、一体どこから誂えてきたものか、涙が出るほど懐かしい水浅黄の着物に常磐色の羽織姿で……。
もうすっかり忘れていたはずの胃の腑がひっくりかえるような、胸の奥がざわつくような感覚が蘇りつつあることに銀時は気づき、そして狼狽えた。
そういやこいつ、ガキの頃からこんなすげぇ別嬪だったっけ。
「なんだ貴様、さっきから変な目をしおって」
銀時にすれば、先ほどのものといい、これまた桂の頭に拳骨の一つもくらわしかねない発言だ。が、あの頃のままの"小太郎"の姿で昔と変わらぬ声を聞かされては、とても出来ない。 それどころかひとたびはガッカリ度無限大で萎れきっていたはずの銀時の心が天井知らずの勢いで高揚していく。
マジ可愛いよな。中身はおっさんのままのくせに。ほっぺなんてつるっつるだよ、もうすべすべ。
あー、可愛いくてたまんねぇなぁ、おい。
「てか、その目つきをやめんか、気色の悪い」
じろじろ見られて気を悪くした小太郎がまた悪態を吐くが、それすらも可愛くてたまらない。
それでも、いや、それだからこそ銀時は残念に思わざるを得ない。
なんでこいつだけ女にならなかったんだ。
「なんだろうなぁ、ヅラぁ。見ての通りおれもこのざまだし、おれの知る限りこの街の住人は誰も彼も、男は女に女は男になっちまってんだぜ。なのにー」
小太郎が目を丸くした。どうやら全くの初耳だったらしい。
「それは本当か?」
おれたちだけではなく皆が?ーと訊いてきた。
「では、ひょっとして人化したゴリラとは近藤のことか?」
小首を傾げる様子がいとけない。
「ついでに言うと百貫デブになったのは土方な」
銀時は、ここぞとばかりに恋敵の株を下げておく。
「マジでか」
「てか、マジで知らなかったのかよ?てっきり知ってるものだとばかり思ってたわ。だって、さっきおれを見て驚かなかったじゃん」
女になってんのによ、おれ。
「異変ならばこのとおり、まずは我が身にも起こっておるからな。これくらいで一々驚いていては身がもたん。それに、思い出せ銀時。おれたちは猫になったことすらあるのだぞ?」
そりゃまぁ、確かに。
白髪頭の老人になった時も一緒だったしな、と桂。
「だから、さっき貴様の姿を見るまでもなく予想はついていた」
さらりと言われて、そういうものかと納得はしても、だからといって銀時の気が収まるわけもなく、
「でも、なんでおめぇはガキになっただけなんだよ、わけわかんねーよ。どうしてこういつもいつも変なんだよおめぇーはよ。ちったぁ空気読め!真選組の馬鹿連中でも読めてんのによぉ!」
どこまでも未練たらしい。
「貴様はなにか思い違いをしていないか、銀時」
真選組と比べられたのが不本意だったのか、いささかムッとした口調なのにそれでも愛くるしく聞こえてしまうのが恐ろしい。
「どーゆー意味だよ」
言葉の意味を計り兼ねている銀時に、小太郎が白状した。
「今朝起きたらこんななりで、ついでに何故かおなごにもなっていた」
「嘘だろ」
ゆうに1分は沈黙した後、銀時が息を吐いた。
「今更見栄はってんじゃねーよ、ヅラのくせに」
「どんな見栄だ!?無礼者!見てわからんか」
うん。わかんねぇ。
「ーこれくらいの年はおのこもおなごもそう変わらんからな」
体格も声も、と小太郎。
「ねぇ……、それマジ?」
徐にそう訊いておきながら、
「なんでだぁ〜〜〜!」
桂が口を開きかけもしない間に慌ただしい銀時の絶叫が谺した。
「なんでそんな余計なことになってんの?ねぇ、なんでだよ!?おれらみたいに素直に女になるだけでよかったのによぉ!ったく!」
「知るか!」
銀時の勝手な言い分に、白桃の頬を染めた小太郎が負けじと声を張り上げた。
それがまたどうしようもなく、可愛い。
うん、悪くねぇ。てか、やっぱ、これはこれで……。
「……でも、ま、女には違いない、な」
「どういう意味だ?」
打って変わった明るい笑顔で力強く同意を求められ、小首を傾げる小太郎の首の細さが眩しい。
「うん、ほんと不幸中の幸いだ。な?」
「だからどういう意味だと聞いている」
熱に浮かされたような銀時の様子に、いかにも訝しげに小太郎が眉を顰めた。
「あー、あれだ、その。せっかく女になってんだからよ、この際それを有効にだな」
「有効に?」
「こんなチャンスめったにねぇだろ?だからな、その、なんだ」
「言ってる意味が解らんぞ、貴様大丈夫か?」
「……挿れさせてくんない?」
身も蓋もない単刀直入な言い様に小太郎は大きな目をまん丸くして、
「何をだ?」
力なく訊く。
「何って……なに、だよ。決まってんだろ」
多少は気まずそうに言葉を濁してはいるが、目が常になく輝いている。
「下衆だな」
小太郎の澄んだ声で言われると得も言われぬ凄みがあった。が、銀時は全く意に介しない。むしろ、そそられるくらいだ。
「なんとでも言え」
「……本気か?」
恐る恐る訊いてくる。
「本気も本気よ」
小太郎は、やれやれと言わんばかりの大きなため息を吐いて
「落ち着け銀時。無理に決まっておろうが」
なんどりと言った。聞き分けのない子どもを宥めるような言い方だ。
が、頭に血が上っている銀時には効かない。
「そこは熱意でなんとかなんじゃね?」
「どんな熱意だ。無理だと言っておろう!」
無茶な言い分に、さすがに小太郎の声も大きくなっていく。
「身体はガキんちょでも、中身はエロいヅラなんだし」
「エロくもないし、ヅラではないわ、少し落ち着けと言っておるのだ、この痴れ者が」
とうとう頭を強かに打たれた。が、さほど痛くはない。小太郎の本気の馬鹿力なら、もっとダメージを受けたはず。 なるほど、確かに少女なのだ。銀時は妙なところに感心した。
「この期に及んでお堅いことは言いっこなしだぜ、ヅラぁ」
「あのな、貴様。落ち着いておれの言うことをちゃんと聞け。貴様、今の自分の態を忘れたのか?」
え?おれ?
怒りを通り越して今や呆れ果てたといわんばかりの小太郎の様子から、銀時は自分が肝心なことを忘れていたことをやっと思い出した。
あ、おれ!今、女なんじゃねぇかー!!
「嘘!あり得ねぇんだけど!」
悲痛な叫びを上げるのに、小太郎はどこまでも冷ややかな目で銀時を見ている。
「ちょ、その目やめてくんない!?」
「ふん」
それが小太郎の返事。ついでにそっぽまで向く。
「だって千載一遇のチャンスだろうが!前にも後ろにも挿れられる機会なんてもう二度とねぇんだよ!なのに、いいの、おまえ!?」
「なっ……貴様と一緒にするな!無理なものは無理だ。さっさと諦めることだな」
「おれはぜってー諦めねぇ!なんでもかんでも簡単に諦めてたら人生しめぇだろうが」
滅多に見せない煌めいた瞳でなんとなく立派なことを言われてもー
「所詮、貴様おれとチョメチョメしたいだけだろうが」
「チョ……おめぇ、んな可愛い顔で、他に言い様はないのかよ?」
「じゃあ、違うのか?」
「……違わないです」
「だが無理だ。そうさっきから言っておろう」
「意志あるところにこそ道は拓けるってもんだ。そうだろ、ヅラぁ?」
「おれに同意を求めるな。つき合いきれん」
「だってよぉ、もったいねぇじゃん。みすみすこのチャンスを見逃すなんてよ」
なんとかなんねぇかなー。なんとかしてぇなー。
目の焦点を遠くとばし、ブツブツと口の中で唱えはじめる銀時の様は、さすがの桂も哀れをもよおすほどだ。
なんとか宥め納得させてやれないものかと桂は桂で考えを巡らせ始めたが、無論なにも浮かぶはずもなく、銀時が諦めるのを待つしかないという結論に達するまでにそう時間はかからなかった。
銀時もまたすぐに音を上げた。
「あー、もう嫌だ!もう無理!どう考えても無理!」
桂にすれば最初から解りきっていることをようやく喚き始めた。
やれやれ、そろそろ末期だな。
「勿体ねぇ!この好機、このまま指をくわえて見てるだけしか出来ねぇってのかよ!……って、おいヅラ!」
「なんだ」
「喜べ。いいーとまではいかねぇが、そこそこの案は思いついた」
誰が喜ぶか。
狂った様に喚き出したと思えば、すぐにピタリと静まった銀時の変わり身の早さに警戒心を抱かないほうが難しい。
「どうせ愚にもつかぬことに決まっておるわ。断る!」
「んなことねぇって。少なくともなぁんもできねぇよりずっとマシだ」
そんなことを言いながらニンマリとしたー元の姿に戻った時、桂が実に人の悪い顔だったとしみじみと述懐するにいたったー笑みを浮かべているのを見てしまえば尚のこと。 同情心の欠片もきれいさっぱり消し飛んだ。
あげく
「指でいいからよ……な?」
だなんてー
「なっ……ふざけるな!」
バコッ!
とうとう小太郎から怒りに燃えた鉄槌が下された。
「この、不埒者!」
バコバコ バコッ!
勢いよく。何度も、何度も。
そいでもやっぱ痛くねぇ。
あーあ、1日でいいからおれの方が早く元に戻んねぇもんか。1時間でもーいやいや、それは無理、短すぎ。せめて半日は欲しいよな、うん。やっぱ、諦めきれねぇわ。
指っていうのは悪いアイデアじゃねぇと思うんだがな。1本じゃもの足りねぇってんなら2本でも3本でも……。指じゃもの足りねぇのはおれも同じだし。やっぱどうでもおれが先に元に戻ってー

桂が知ったら血相を変えて光り物を持ち出してくること必定の、そんな埒もないことを考えながら、銀時は小太郎からの折檻を甘んじて受け続けていた。



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