二人とも、行ってしまったのだな。 銀時が消え、ついに高杉と袂を分かって今、桂は一人虚空を仰いだ。 あれほどの友を二人も失うことになろうとは、俺も大概不運ーいや、俺の不徳の致すところかーと、ほんのり笑みさえ浮かべて。そのくせ、寂しくて、哀しくて、虚しくて、苦しさに胸は詰まった。 どうして、こうなったのであろうか。 なぁ、銀時? なぁ、高杉? 俺もまさかこんなことになろうとは、夢にも思わなかったぞ。そう、あの時からずっとー。 「俺がお前の代わりにその『将』って奴になってやる」 戦に明け暮れ、久しく思い出すこともなかった銀時の言葉。そして、唇をへの字に曲げながらも不承不承に頷いた高杉の、それでいてどこか優しげだった瞳。すぐには気づけなかったが、 後からじんわりと滲み出しやがては全身では受け止めきれないほど溢れんばかりとなった喜びに、幼い桂はどれほど戸惑い、 どれほど満たされたことか。 目を閉じずとも鮮やかに蘇る記憶に、冷えた胸さえ温かくなる。 あの日、桂の胸に明かりが二つ灯った。夜を越えるにはとても足りない小さな小さな灯火。けれど確かに温かく、その炎はゆるぎないもので。 どうかいつまでも消えませんようにーとの小太郎のひたむきな願いは、未だ倒れ伏している友二人に手を差し出した時、消してなるものかとの決意に変わっただった。 とられた手ととった手の温もりがあまりにも嬉しくて、頼もしくてー。 消してはいけない。絶対に、消さない。 いつだって、どんな時だって。 俺はー、と。 あの強い思いは探るまでもなく、こうして一人佇んでなお、まだ確かに桂の裡にある。 なのに。 銀時と高杉は違ったのだろうか? 軽々しい気持ちであんな言葉を口にし、頷いたと? 違う。 そんなはずはない。銀時にも高杉にも、「実」はあった。ならば、ならばーと桂は思う。 少しでも思い悩んでくれただろうか? 俺の元から去る時にほんの僅かにでも躊躇ってくれただろうか? ああ、きっとそうに違いない。 桂は、ただ信じた。 彼らもまた、人知れず眠れぬ夜を過ごし、いたたまれぬ思いに苛まれたのだと。 あの二人の胸の奥深くに今もなお、小さな明かりが灯り続けていることを。 なればこそ、これまでともに歩んでこれた。そんなこと、この世の誰より知っている。そうであろう? ならば、何を悲しむことがあろうか。また三人、いつか手を取り合う日が来るかもしれないというのに。 銀時が銀時であるように、高杉が高杉であるように、桂もまた、信じた道を歩き続ければ良いだけのこと。 いつか、互いの道が交わる日がくることもあると。 桂は空を仰ぐのを止め真っ直ぐに前を見据えた。 すう、と一つ息を吸い、心して新たな一歩を踏み出した。 鈍色の空よりもはるかに澄み、一点の陰りさえない瞳は、ただ明日へと向けられている。 直向きに、これまでと変わることなく。 |