「深白」ー桂と銀時ー



「ちょ…なに、これ!」

「だから明かりはつけるなと言ったろうが。言うことを聞かぬ貴様が悪いのだ」

「おれが聞いてるのはなんでこんな事になってるのかって話だろうが!」


常々思っていたのだが、お前は怒れば怒るほど抑えの効いた低くて良い声になるな。

今が正にそれだ。


「こんな…」


こんな、というのはおれの肌のあちこちに散っている紅い跡のことだろう。

こんなものを見る羽目になるから、明かりをつけるのはよせと言ったのに。

貴様が聞き入れぬままにおれの着物を剥いだりするから、こんな厄介なことになる。



「やっと戻ってきたと思ったら!どこでこんなもの付けられてきたんだ?」

「どこで?貴様が気になるのは場所か。なら、教えてやっても良いぞ」

「てめぇ…」

「気になって萎えるくらいならこれ以上はよせ。凄まれたところで、おれはお前の悋気にまみれた問いに答えるつもりはこれっぽちもない」

「一ヶ月近くも行方知れずになっておいて何、その言い草?しかもあんなことがあったすぐ後だってぇのによ?」


ふん、一ヶ月どころか数年間も行方知れずだった男が何を言うか。

いつか…そうだな、万一、貴様を心底憎むことが出来て、地獄に突き落としてやりたくなる日が来たらこの言葉、言わせてもらうことにしようか。


「ああ、憎たらしい!なんでこんな…」

「こんな?」


挑発するように赤い眼をじっと見つめてやると、双眸に一瞬で焔が灯った。

打ち付けるような勢いで頭を胸に埋めてくる。


「急にどうした、銀時?」

「黙っとけ」


先ほどより更に低い声で、短く告げられる。

銀時はそのまま食らい付くように胸の突起にむしゃぶりついてくる。


っつ…。


ぴりっとする鋭い痛みが走り、血が一気に両の突起に集まるのを感じた。

「いたっ!」


抗議する声は無視されて、しつこい程に舐められ、歯を立てられて嬲られる。

目の前にあるふわふわのに手を差し込んで髪を思い切り引っ張ってやってもなお、止めない。


「った!…貴様、いい加減にしろ!」

「黙ってろって!」


銀時は怒ったようにー実際、ひどく機嫌を損ねてはいるのだがー吼えると、その行為に没頭し続けた。


いい加減うんざりして、脚をばたつかせて抗議すると、左右の膝頭を大きな掌で掴まれ、そのまま極限まで左右に大きく開かされてしまう。



「や、…やめ…ろ!」

「やめねぇ!」


あられもない格好をとらされたまま、おれは銀時の射貫くような視線に晒される。


「こんなところにまで…なんでだよ!」


その悲痛な声を耳にした時は流石におれの良心も痛みはしたが、それも銀時がいきなり脚の付け根、腿の内側に思い切り噛み付いてきたことで帳消しだ。


「っ、痛い!」

「痛くしてんだよ!黙りやがれ!」


どっちが憎たらしいのか!

思い切り睨み付けてやると、なに、その顔ーと睨み返された。

そして、突然一番敏感な部分を握られそのまま軽く扱かれた。


「あっ…や…」


知らず待ちわびていた刺激を急に与えられ、もうすぐイける、と思った瞬間、銀時はすっと手を離した。


「もうすぐイきそうなほどピクピクしてっけど、どうする?続ける?」

「き…貴様…っ!」

「…おれが欲しいって言ってみろよ」


そう言って、また胸を弄りはじめる。

誰が!

おれの自制心を甘く見るなよ。

おまえの思うように事を運ばれてたまるものか。


生憎お前を欲しがっているのはおれではない。

お前を誰より欲しがっているのは、高杉だ。


おれは一生懸命与えられそこなった快楽から気を逸らし、懸命に頭を働かせ始める。



皮肉なものだな、銀時。

お前が今嫉妬に狂い、憎悪している相手だというのに。


なぁ銀時お前は考えたこともないだろう、高杉はお前のようになりたかったのだぞ。

幼き頃は、おまえと先生の暮らしを羨み、長じてからは、おまえの鋼のような強靱な肉体を羨んだ。


なにより白夜叉と恐れられるような、そんな存在でありたかったのだ。


お前は知らない。

自分が高杉の欲しかった全てを持っていたなんて。

なのに、お前は高杉が求め、歩み続ける道から逸れた。

それが、高杉にはなにより我慢ならないのだ。


高杉が追い求めたお前の幻影。

そのお前はいつまでもおれを求め続ける。


高杉はお前の幻影を追うのを止め、その代わりとしておれを求め始めた。

まるでお前がおれを求めるように、だ。


悲しいかな、おれといえばお前達二人をどうしてやることも出来ず、ただ見守るか、時折こうやってそれぞれの前にただ身を投げ出すだけという為体。


どこまでもこの負のスパイラルは終わらない…。



「あ、あ、あ、…ぅ…ん、ああ、あっああっ!」


返事を待ちあぐねた銀時が、おれを喉奥まで咥え込んだ。

焦らされていた刺激を与えられ、おれはあっけなく果てた。

銀時はそれをそのまま嚥下していく。


ひとしきり飲み干すと、銀時はおれの膝から手を離した。

やっと閉じることを許された脚が痛む。


ぜぇぜぇと喘ぐ銀時を見ると、自身を痛々しい程反り立たせ、先端からたらたらと欲望を流れ出させている。


「さぁ、銀時…おいで…」


そう言って、おれは先ほどやっと閉じた脚を自ら開く。

こい、銀時。

それで少しでもお前の気が済むというのなら。


銀時は食い入るようにそこを見つめていたが、やがて自分自身をおれの中に性急に捻じ込んできた。


「なぁ、言ってくれよ、おれだけだって。おめぇもおれが欲しいって」


銀時は何度もそう繰り返す。

駄々をこねる子供のように。

行為は乱暴なのに、その声音はひどく悲しげで、おれの心を射る。


「なぁ!ヅラぁ!なぁ、小太郎!」

「ひ…っ!…うっぐっ…ぅ…うっあっぁぁっ…!!」


滅茶苦茶に犯され続けながら、それでもおれは答えてやれない。

喉から出るのは無理矢理に絞り出される喘ぎか悲鳴だけ。


銀時の行為は止まるところを知らず、段々とエスカレートしていくようだ。


「答える気がねぇみてぇだから、もう何も言わなくていいぜ」


銀時の最後通牒。

これには相応の誠意で応えないと、おれは何をされるかわからない。


気を抜くと怯えて身じろぎをしそうになり、おれは渾身の力をこめて奥歯を噛み締めて、耐える準備を整える。



もはや、銀時はおれからなんの言葉も必要としていない。

まるで、おれを壊すことに専念しているかのようだ。


綺麗な赤い瞳は、今や怒りの焔を湛えて、じっとおれの痴態を見つめ続けている。

この肌をちりちりと焼く、滴るような嫉妬の眼差し。

おまえは誰にも渡さないとその目が、おれを翻弄し続けている指が、舌が、おまえが全身で叫んでいるのが聞こえる。


ぽとり、ぽとり。

温かな涙の雫がおれの腹を濡らしていく。


「銀時…」


おれは咄嗟に銀時の頬を拭った。

銀時は、自分が泣いていることに気付いていなかったのかひどく驚いた顔でおれを見た。


「ヅラぁ…」

「おまえが大切だよ、銀時」

「嘘」

「嘘じゃない。けど…」

「けど?」


すまない、銀時。

おれはお前も、高杉も二人ともが大切なのだ。


だから、こんなことでおまえの気が済むというのなら、どうとでもするがいい。


おれは耐えてみせるよ、銀時。


高杉のために。


そして、なによりも、おまえのために。



おれはおまえに答える代わりに、再びおまえの激情の全てを受け止めるため瞼を閉じる。