「深黒」ー銀時と桂ー



紅桜の傷がようやく癒えたと思った頃、ヅラが姿を消した。


白いのに訊いても、志士たちに訊いても行き先は知らないという。

やばい。

こういう時、あいつは火中の栗を拾っていることがままある。

猫のように煽てられもしないのに。



やきもきしながら待つだけの一ヵ月はとてつもなく長かった。

なのに、ある日いとも涼しい顔でふらりとおれの前に現れやがった。

待ちあぐねた日々がまるでおれだけが見ていた幻影であるかのように。

目の前のこいつも幻じゃないだろうな。


そんな馬鹿な思いに囚われたおれは、むずかるこいつをさっさと万事屋に連れ込んだ。

幸い、神楽は熟睡中。

あいつは大地震が来ても起きやしねぇほどに寝穢い。



明かりを消せだの相変わらず文句を言いつのるのを無視してさっさと着衣を剥いだのだが…


白い肌のあちこちにこれ見よがしに紅い跡が散らされていた。


もう薄茶になっているようなものもあれば、ついさっき咲きましたとばかりに鮮やかさを誇示しているものもあった。


ヅラは淡々と「だから明かりはつけるなと言ったろうが。言うことを聞かぬ貴様が悪いのだ」と何でもないことのように言うのが憎い。


何を言っても、どう追及しても、ヅラはまともに取り合う気はないらしく憎まれ口を叩くだけ。

こいつがこういう態度をとるのは、猫が毛を逆立てるようなもの。

一種の威嚇行為だ。


おめぇはおれから一体何を守ってる?

この跡をつけやがった男ですか?


ヅラはおれの悋気を百も承知で、挑発するようにおれの眼をじっと見つめてくる。


ああ、そうですか。
もういい、こっちのほうに聞いてやるから!

おれはヅラの胸に頭を埋め、そのまま胸の突起に食らい付いた。


「いたっ!」


ヅラが抗議するような声を上げるが、おれは知らん顔で一心にそこを舐め、歯を立てて嬲り続けた。

ヅラはなおもおれの髪を引っ張ったり抗議の声を上げたりするが、「黙ってろって!」と一括して黙らせる。

おめぇの言うことなんか聞いてやんねぇー。


往生際の悪いヅラが脚をばたつかせたので、左右の膝頭を掌で掴んで、そのまま極限まで左右に大きく開いてやる。


ヅラが止めろと叫んだが、止めてなんかやらねぇ。


だって、おめぇは許したんだろ?

誰だか知らねぇそいつには。

こんな脚の付け根ギリギリのところにまで跡をつけさせてるじゃねぇか!


だったらおれだって同じことを…いや、むしろそれ以上のことをしてもいいってことだよなぁ、ヅラぁ?


おれはその紅い跡に思い切り噛み付いてやる。

こんな跡なんか消えてしまえばいい。

消してしまえばいい。



「痛い!」


噛み付き、吸い付く力が強いのか、ヅラが悲鳴を上げる。


「痛くしてんだよ!黙りやがれ!」


こうでもしねぇとおれはおめぇにそいつ以上の痕跡を残せねぇだろうが。

黙って大人しくしてやがれ。


なのに、おれの一括が気にくわなかったらしく、ヅラは性懲りもなく睨み付けてきやがった。


「なに、その顔?」


ムカツクんだよ、そいつに。

そいつに許したおめぇにも。


こいつにもこんなことさせたんだよな?

おれはヅラ自身を握ると、そのまま軽く扱いてやる。


「あっ…や…」


弱々しいそんな声、そいつにも聞かせたんだよな?


もうすぐイきそうなほど脈打ち始めたそれを感じて、おれはさっと手を離してやる。

まだだ、ヅラ。

まだだ。


続けてほしいか?

ならばそう言え!


「おれが欲しいって言ってみろよ」


そう言って、二度とそこには触れてやらずに、再び胸に手を這わせた。


執拗に胸だけを責め続けるのに、ヅラは何も言わねぇ。

ただ、遠い目をして思い沈み、おれの与え続ける刺戟にも、与えられ損ねた刺戟にも興味がないといった風だ。


なんて憎たらしい奴だ!


「あ、あ、あ、…ぅ…ん、ああ、あっああっ!」


返事を待ちあぐね、おれはヅラ自身を一気に喉奥まで咥え込んだ。

これで、おまえの意識はおれの方を向くのか?


体の方はおれに従順で、ヅラはおれの口内であっけなく果てた。

おれはヅラが放ったものをそのまま呑み込んでみる。

薄い。

わかっていたのに、腹が立つ。

何とか苛立ちを抑えようと理性に総動員をかけるが、もともとないのか、少ないのか、ちっとも発動する様子がねぇ。

苛立ちは一呼吸ごとに募り、それに比例するようにおれの劣情がふつふつと沸き上がってくるのを感じる。



「さぁ、銀時…おいで…」


なにを思ったか、ヅラがさっきまでとは大違いの優しい声でおれを呼ぶ。

みると、あろうことかヅラが自ら脚を開き、おれを求めている。

いつまでも綺麗な色をしたままの小さな窄まりは、お上品に口を閉じていたがおれにはわかる、おれを欲しがってる。


解す必要なんてねぇよな、おめぇもおれが欲しいんだよな?


おれは一息にそこにおれ自身を捻り込み、欲望のままに最奥まで埋め込んだ。


「なぁ、言ってくれよ、おれだけだって。おめぇもおれが欲しいって」


深く抉るように何度も突き込みながら、おれはおまえに頼み続ける。

けれどおまえは答えちゃくれねぇ。


「なぁ!ヅラぁ!なぁ、小太郎!」


相変わらずおまえは答えない。


「ひ…っ!…うっぐっ…ぅ…うっあっぁぁっ…!!」


内蔵を抉るくらいに深く強い刺激を与え続けて、やっと泣き声のような喘ぎ声が返ってくるだけ。


いい加減にしろ!


おめぇえはおれから何を守ってる?

わからねぇ。

もう、わからなくてもかまわねぇ。


「答える気がねぇみてぇだから、もう何も言わなくていいぜ」


おれの本気を感じ取ったのか、ヅラが大きな目を見開いて、おれをじっと見つめかえした。

長い睫が微かに震えている。

けど、もう遅い。



「んっ、くっ…うっあ…ああっ」


ヅラの口から漏れるのは、苦痛に耐える呻き声。

どんなに乱暴に扱っても、泣き声はあげやしねぇ。

おれに滅茶苦茶に犯されながらも、全てを受け入れて耐えている。


こりゃ、尋常じゃねぇ。


気にすまい、とお題目のように唱えてみても、やっぱダメだ。


おめぇ…そんなに必死になに守ってんの?

なぁ、何がそんなに大事なの?

ヅラぁ。



「銀時…」


苦痛に顔を歪めながら、ヅラがそれでも優しい手つきでおれの頬を拭った。


あた恥ずかしいことに、そうされて初めて、おれは自分が泣いているのに気が付いた。


「ヅラぁ…」

「おまえが大切だよ、銀時」

「嘘」

「嘘じゃない。けど…」

「けど?」


ヅラはその先は頑なに答えない。


ただ、おれの全てを受けいれるとでも言いたげに、黙って目を閉じた。


ああ。嫉妬でこの肌が焼き尽くせるものなら、視線で全てが絡め取れるものなら!


おめぇをどこにも行かせねぇのに。誰にも触れさせやしねぇのに!