そは、心ななり  余聞


あっ、
っは、は、ぁ

切れ切れに洩らされる吐息に細い背すじが絖の光沢をたたえてうねっている。雪肌の照り返しで、 薄暗いはずの室内がうっすらと明るい。


「殺るも、犯られるも、覚悟は出来てんだろ」
進むべき道が決まった以上、相手の選り好みなんてしてられねぇんだよ。おれたちがやろうとしているのはそういうことだ。
「莫迦か」
凍てつくような声で、なのに、高杉の伸ばした手をはね除けるでもなく、桂が嗤った。
「貴様を相手にしておれになんの得があるというのだ?」
「おれは最後まで逃げねぇ。絶対にな」
「端から逃げるつもりなどなかろうが」
「まぁな」
「貴様が今どんなな貌をしているか、鏡で見せてやりたいわ」
「そりゃきっとどうしようもなく人の悪そうな貌だろうよ」
こんな風にな。にたり、と嗤い否やを言わさず薄っぺらい畳に押し伏せ、真っ先に紅唇を奪った。
それは、刻印する為の儀式。
おれはおまえから逃げたりしねぇ。が、おまえもおれから逃げられねぇーと。
気が遠くなるほど長い間焦がれ続けてきた想い人に、心の中で強く誓う。
聞こえたわけでもなかろうに、固く閉じこめられた腕の中で、桂の動きが止まった。


もう、幾度二人で果てをみたことか。それでも、高杉は桂を責め上げ、苛む。見えない何かに挑むように、執拗に。
「たか、す、ぎ……も、う、離せ」
桂の懇願にも耳を貸さない。倦かず衝き通す。
あっあッ、あ!
痩身を高杉の熱に焼き尽くされ、桂が一際高く啼いた。助けを求めてでもいるかのように、両の手が縋るものを求めて空を掻く。その手を掴もうとして、高杉は あり得ないものを見てギョッとした。
銀時がそこにいた。相変わらず覇気のない様子で、それでも桂の手をしっかりと握ったまま、跪いている。
巫山戯んじゃねぇ!
居もしないものを見て驚くような男か、おれが。そんな可愛げなんざ持ち合わせていたためしはねぇ!それくらい、てめぇは百も承知だろうが、ああ!?銀時!
心中で吠える高杉に応えるように、銀時はそれまで見つめていたらしい桂から高杉の方へと視線を移した。見慣れた赤い双眸にはなんの色も浮かんでいないくせに、 やたらと哀しげに見えるのは何故だろう。
はっ。
ざまぁねぇな、銀時。未練たらたらかよ。
高杉は銀時をひたと睨み付けた。
消えろ。二度と出てくるな。てめぇはせいぜい逃げて逃げて、逃げまくるこった。こいつのことはおれに任せろ。おれは、逃げねぇ!これから先、どれ程忌み嫌われようが、蔑まれようが、おれたちは突き進む! おれたちなら、出来る!
吠え続けながら、ありもしない銀時の幻影に見せつけるように、高杉は更に激しく桂を貫いた。
あッ、アッ……ぅ、ああっ、あ!
薄紙を顫わすような喘ぎを零しながらとうとう桂が力尽きると、それきり銀時の面影はすっかり消えてしまった。



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