心契 その18

「ヅラぁ…」
じっと目を閉じたままの桂の首筋に銀時は舌を這わせる。
桂は一瞬、体を強張らせたが、繰り返し首筋を攻められていく内に緊張を解いていった。その様子を確認した銀時は、おもむろに桂の腕をそっと掴み上げると、今度はそのまま脇の下に顔を埋める。
「や…な…なにを?」
焦る桂が身体を捩ろうとするのを押しとどめ、銀時はそのまま鼻先を擦りつけた。
「ひっ!あ…、な、にをしている?」
「んー?なんか血の臭いがきつくてさ、せっかくのおめぇの匂いが分かんねぇんだ」
ふ…あっあ、あ。
感じやすい場所にそのまま返事をする銀時の息がかかり、桂は軽く身悶える。
「ここなら、少しはするかと思ってよ」
銀時はさらに鼻先を深く突っ込んでくる。
「ちょ…や…」
「あー、うん、おめぇの匂いだわ、これ」
銀時はそう言って深く息を吸い込んだ。
「も、も…う、よ…せ」
あまりの羞恥に桂が止めさせようとするが、「じゃ、もうちょっとだけ」と言うと、散々匂いをかがれた桂がまた身体を硬くするのを無視して、銀時はそのまま脇の下をもぺろりと舐め上げた。 何匹もの虫が一斉に腕へと這い上がってくるようなぞわぞわした感触に、桂は喉を振るわせながら耐えた。
「銀…と…き……も…やめ…」
「ん?まだ駄目」
無慈悲にもそう言うと、銀時はそのまま反対側の脇をこじ開けると同じように舐め始める。
今度こそはっきりと悲鳴を上げて、桂は身体を左右に捩り出したが、腕を掴まれているので思うように逃れられない。
銀時がそんな桂の反応を楽しんでいるのは明らかで、執拗なまでに同じ愛撫を施し続け、その度に桂は甘い悲鳴を上げ続けた。
「は、あっ…も…やめ…ぎ…ん…と…」

桂はなおも身を捩りながら懇願するが、銀時はその感じやすさと無意味な抵抗に我を忘れかけるほどの喜びを感じるだけ。
「そんなにやなら、こっちにしてもいいけど?」
銀時は右手をそっと桂の下肢に移動させ、柔毛の辺りを揉みしだき始めた。
「よ、よせ!」
慌てふためいて跳ね起きようとする身体を押しとどめて、「じゃ、こっちはもうしばらく我慢ね」とまた腋下を責め始める。
散々懇願を続けてやっと解放された時には桂の息は絶え絶えで、力を無くした身体はぐったりとしている。
「まだまだこれからだってぇのに、そんなに感じやすくてどうするの?」
「しっ…知るか…!」
「おっ、そーゆー返事が出来るなら、まだまだ余裕だな」
「なっ…」
息を吸い込むようにして発せられた声に怯えたような震えを感じ取り、銀時はまじまじと桂を見下ろした。
桂はその白い身体をも僅かに震わせながら、銀時を見上げている。
その様子を見て取って、先ほどまで銀時の体中を駆け巡っていた熱い血がすこし落ち着き始めた。

よっ、
銀時はそっと桂の後頭部に手を当てると優しく抱き起こし、その痩身をしっかりと抱きかかえた。
そして、背中を上下にそっと撫でさすってやる。
「すまねぇ、怖がらせちまったみてぇだな…」
桂は何も応えず、銀時の背中におずおずと手を回すと、わずかにしがみつくような素振りを見せた。
「おれ、あんま嬉しくて、舞い上がっちまってた」
銀時は、今度は桂の髪を指ですき始める。
「もうずっと長い間おめぇが欲しくてたまんなかったから…」
桂はやはり何も応えないが、じっと銀時の言うことに耳を傾けているらしく息をひそめている。
「やっとおめぇをおれのもんに出来るんだって思うと、頭に血がのぼっちまって…。ついさっき、おめぇが無事でいてくれんなら、なんも要らねぇって思ったばっかなのによ…」
銀時が軽く鼻をすすったので、桂が銀時の方に顔を向けた。
「すまねぇ…」
銀時は桂を抱く腕の力を強めて、すまねぇと繰り返し言った。
「銀時…」
桂の声に咎める色がないことに気付き、今度は銀時がおそるおそるといった風に桂の顔を見た。
そこにあったのは、いつもの取り澄ましたような人形のような容貌ではなく、 どこか慈愛に満ちた微笑みで、銀時は謝罪の言葉も置き去りにしたまま見惚れてしまう。
「もう、よい」
「ヅラぁ」
「もうよいのだ、銀時…」
「…いいの?」
「その…あんまり無体なことさえしなければ…」
「……あんがと」
「銀時」
「ヅ…小太郎」
滅多に呼ばれない名前で呼ばれたせいか、桂の身体がビクリと反応した。
「あー、やっぱ無理かも。おめぇさっきから可愛すぎ」

そう言う銀時の嬉しげな顔は無邪気とはとても形容できないしろもので、舌の根も乾かぬうちにこれだ、と桂は諦め半分呆れ半分の深いため息をついた。


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