心契 その17

ん、
僅かな息継ぎの合間のみを許しはしたものの、銀時は一向に退く素振りを見せなかった。
桂は、時折銀時の名を呼ぼうとしては当の銀時にそれを邪魔され続けていたが、それを特に咎め立てするような様子はなく、その身を委ねきっている。
それに力を得て、銀時の唇は段々と大胆になって、桂の顔中に接吻を与え続けた。
額に、こめかみ、眉間。閉じられた瞼の上から眼球を舌でなぞり、形のいい鼻先をぺろりと舐めた。
噛みつけば甘い汁が滴ってきそうな白桃の頬に、何度も自分の頬をこすりつけ、その感触を楽しんだ。
髭が擦れて痛い、と桂がくすくす笑うので、なんでてめぇはこんなにすべすべなんですか、と言って銀時は左の頬を指でひたひた叩いてみる。すると、今度はその弾むような感触に夢中になった銀時がなんども繰り返し叩くので、苛ついた桂がその指をぱくりと噛む。
「いでででで、なにすんのぉ!」
驚いて声を上げる銀時に「うるひゃい、ひつこいきはまがわるひ」と指を咥えたまま喋るので、何度か桂の温かい舌がかすめるように銀時の指に触れる。

あー、もう、なんでこんな可愛いことが無意識で出来ちゃうんですか、この子は!
たまらず、そのままその指で桂の口腔内を掻き回す銀時に驚いた桂が口を開いた隙に指を抜き取ると、矢継ぎ早に自分の舌をねじ込んだ。
怯えたように縮こまって逃げ惑う舌をじりじりと追いつめながら、途中、口内を舌先で蹂躙し、思う存分舐め回し、掻き回した後で、舌を絡め取ると、わざとじゅるっという派手な音を立てて吸い上げた。
その音に、桂の身体に急に力が入ったのを感じ取った銀時は怯える舌を解放してやり、口元に溢れているどちらのものか判らない唾液をそっと拭ってやる。
その宥めるような行為に、おそるおそるといった風に桂がそっと目を開いた。その瞳が焚き火の炎を映しながら濡れて光っているのを認めた途端、胸いっぱいに甘い疼きが広がり、銀時は眩暈がしそうな幸福感と欲望に満たされていった。

「いいか?」
その着衣をはだけながら、なにが、とは言わず桂に訊く。
なにが、とは問わずに桂は銀時の腕の中でふるりと身を震わせた。
その様子を見て銀時はそっと立ち上がり、着衣を脱いでいく。
「生きて帰ってきたから…約束のご褒美ちょーだい…」
それだけ言うと、銀時は桂の答えを待たず、脱いだ着物の上に桂の身をそっと横たえた。
改めて、深い口づけを与えながら、性急に桂の着衣を乱していく。桂は銀時の動きについて行くのに必死で、そのことに気付いてもいない。

月明かりの下に暴かれていく肌は、あまりにも白く作りものめいて銀時の目を奪った。
先ほどの戦闘で負った傷はそこかしこに赤い筋を残し、中にはまだ血を滲ませているものも少なくなかったが、それでも、桂の肌を銀時はこよなく美しいと愛でた。
桂が気付いた時にはすでに半裸の状態で、銀時は胸の僅かな尖りを啄み、舌で舐め上げ始めていた。
「…ん、あぁっ!」
自分の上げた嬌声に驚いて桂がぱちりと目を開けた。どこか唖然とした様子だ。
「いくらでも声出していいから、おれもっと聞きてぇ」
「銀時…やはり…いくらなんでもここでは…」
「それって、ここじゃなけりゃいいってこと?」
その言葉に、多分桂は耳まで朱に染めているはず。月と小さな火の明かりだけじゃそこまで判らねぇのが残念だ、と銀時は思う。

「う…」
ほぉら、また始まった。もうこいつには考える隙を与えない方がいいな、と銀時は判断し、もう一度先ほどの行為に没頭しようと 桂の胸に顔を埋めた。
「銀…時、ここ、は…戦場だ…ぞ…」
銀時の舌に翻弄されながら、桂が訴えてくる。
「なに?不謹慎って?死者を悼む心を持てって?」
薄紅色に淡く色づいた突起をの舌先で突つかれながら、桂が規則的に身体を上下に揺らしたので、頷いているのだと銀時は理解した。
「悪ぃ、今おれ生きてる自分の方が大事。生きてるお前を感じてないと、怖くてたまんねぇから」
それ以上桂に何も言わせないように、銀時は全力で桂の理性を奪いにかかった。
滑らかな肌の感触をゆっくりと味わうように、胸元から、脇へ、脇からそのまま脇腹とねっとりと舐め回す。時折、桂がびくりと身体を震わせる度、 記念とばかりにそこをきつく吸い上げ、所々に朱印を刻み込んでいく。
ふ、うっ…
桂が苦しそうな息を洩らした。
見ると、声を出さないように自分の指を噛んで耐えている。
「ちょ…いいから、声出せってば」
いやいや、と子供がするように桂が首を横に振る。
「とにかくこれは駄目」
そう言って銀時は桂の指を退けてしまうと、そのまま手を握りこんだ。もう片方の手も握り込んで自由を奪うと、再び胸の尖りにむしゃぶりついて、強く吸い上げる 。
「やぁぁっ! いっ…や…だぁ…!」
「そそ。それでいいんだよ、声出せるじゃん」
それにーと今度は優しく言う。
「ここにはおれ達しかいねぇ。だぁれもいねぇんだ」
どこかしんみりした口調の銀時に、桂は強張らせていた身体からゆっくりと力を抜いて銀時をじっと見返した。

「…銀時」
桂の目に映った銀時はとても不安げで、双眸にはうっすらと光るものを湛えている。
「銀時」
桂はもう一度銀時の名を、今度は愛おしげに呼ぶと、瞼を閉じた。


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