莫迦に莫迦という奴が莫迦とは言うけど、端から見たらどっちも大莫迦 後篇


「ちょっ、ま、待て銀時!」
何故、自分がこんな目にあっているのか、どうしてそんな必要があるのか、桂はさっぱり解らない。
それは困る。
これまでのように、解らないなら解らないなりに諦め半分で流されてやるわけにはいかない。
なにしろ銀時には恋人がいるのだ。愚行の報いでふられかけているとはいえ、銀時の方はよりを戻したいと思っている恋人が。

おれのせいでよけい話が拗れるのは拙い。 銀時も銀時だ、こんな時に!
貴様がせねばならぬのは、姿を消した恋人を捜し回ることではないか!

「莫迦、離さんか!貴様はこんなことをしている場合ではないのだぞ!」

着衣を脱がせにかかっている手から逃れようとするが、力では敵わない。
今までだってそうだったように。
桂の意に反して易易と組み伏せられてしまう。

「ぎん…とき……ひと、の…はなし、を…聞け!」
本気で睨めてやっても、銀時は鼻を鳴らすだけ。
ただ、どこか傷ついているようにも見える。
大丈夫だ銀時(多分)。
まだ間に合うから(多分)。
心底詫びれば許して貰えるはず(多分)!
「だから…そう悄気るな」
な?

確かに浮気は背信行為だ。
恋人が怒るのは仕方がなかろう。
だが、何事も諦めてはいかんぞ。
おまえの実を見せれば、相手もきっと解ってくれる。

「嘘だよ」
「嘘ではないぞ?」
  ちげーよ、と桂を組み敷いたままの銀時が苦笑する。

「嘘だよ、全部。女が出来たってのも、浮気したってのも」
「はぁ……?」
「おめーが見たのは依頼人。同行してる時に神楽が銀ちゃんヅラがいる、つってよ。振り向いたらお前、どっか行くとこだったから。あーこりゃ誤解したかな、と思ってよ。そしたら案の定勘違いしてやがったから…」
「リーダーもいたのか?」
それは…気付かなかったな。
「おめぇがちゃんと神楽に気付いてりゃ、こんなことになってなかったんだけどよ」
「ふざけるな、貴様!自分の嘘をおれのせいにするのか!そこになおれ、成敗してやる!」
「こんな格好でそんな勇ましいこと言われても、なぁ…」
「貴様が離さんからだろうが、退け、邪魔だ。てか、重い」
「酷ぇ」
おれはな、貴様のために喜んだのだぞ。
これからはもっと幸せになってくれる、と。
おれなどを相手にせずともよくなったと。

「それを貴様は!」
「あー、もうこの莫迦!」
ん…んんっ。
噛み付くように言いつのる桂の、その紅唇を淀みなく漏れ出る文句ごと閉じこめるよう深く口づけられる。
舌を噛んでやろうかという考えが一瞬過ぎったが、一時は勝利しても所詮この体勢のままでは負かされるのは火を見るより明らか。
桂は諦めて銀時のさせたいようにさせておこうと決めると、もごもごと声にならない文句を言うのを止め、銀時の左手で一纏めに掴まれている両の手の力も抜いた。
襦袢の紐を解こうとしていた銀時が動きを止め、桂を見下ろす視線が近い。

「姦るならさっさとやれ」
それで貴様が何か得るものがあるというのなら…。

「あー、もう、なんでこいつはこうなんだろう!」
そして大仰に溜息を一つ。
溜息をつきたいのはおれだ。
しかも、それはこっちの科白だろうに。
くだらん嘘などつきおって!
どうしてそんな愚かなまねを。
咎めるような桂の視線を逸らすことなく受け止めると、銀時はまた溜息。

「…わかんねぇの、おめぇ?」
桂は解るか!と無言のまま一睨みを返す。
「もー、マジ勘弁!」
だから、それもおれの科白ではないか。
こやつは一体なにを考えておる?

「ふつー、本気の奴が他に相手作ったら、怒ったり悲しんだりしねぇ?おれだってちょっとした悪戯程度のことだったのによ、なんにもねーんだもん。隠してるとか無理してるとかじゃなくて、マジだもんよ。おめぇは、おれのことなんかどーでも良かったんだろうなーって思っちまってよ」

な ん だ それは。
自分のなかで何かが切れる音を桂は聞いた。
「要するに何か、貴様はおれを試したというのか?」
いつもよりオクターブは低い声で唸るように言ってやると、銀時が身じろぎしたのを感じた。
いける。
このまま押せばよい。
「へ?」
「つまり貴様はおれを信用しておらぬと、こういうことだなぁ、銀時?」
「え、いや、そういうわけじゃ…」
体勢ではどうみても銀時の方が優位にあるのに、会話の主導権は桂が奪取した。
「おれは悲しいぞ銀時…」
「え、いや…ちょっと…」
狼狽える銀時を冷たく見据えながら、でも、桂は内心笑いが止まらない。

やはり莫迦だ。
おれの本意を試そうとして、結局は自分の本意を先に漏らすなど。
策士が策に溺れてどうする。

「つまり、貴様はおれが本気ではない相手でも身を委ねるような男だと思っておるということだものなぁ」
「え、え。それって…おめぇも本気ってこと?」
も、ときたか。
それは重畳。
実はおれもだよ、銀時。
正直、戒めが必要なくらいには、貴様に溺れそうになっていた。

だがな、おれをたばかった代償は高くつくぞ?
本当は少し胸が痛んだとか、死んでも教えてやらぬ。
だから、諾とも否とも言葉にはせず、ただ微笑んでみせる。
言質をとられるのは癪だ。

「なんか、色々すんませんでした」
たったそれだけのことで嬉しげにしがみついてくる銀時の単純さに、桂の悪戯心が顔をもたげる。
少しくらいの意趣返しは許されるであろうよ。
なにしろ、さんざん振り回されたのだから。

「本当に相手を想い、その幸せを願うなら、いつでも身をひく覚悟ぐらいしておくものだぞ」
だから、もし、おれに恋人ができたらーそれは多分美人の人妻だーその時は貴様が潔く身をひくのだぞ?と耳元で囁く。

「ちょ、なにそれ。ヅラ君怖い」
ね、冗談でしょ?
冗談だと言ってくれ、300円あげるからコンチクショー!

「冗談だ」
だから、銀時ー
あっさり与えられた言葉に固まっている銀時に見せつけるように、桂は静かに目を閉じる。
それを合図に望んだ通りの温かな感触が、そっと唇に降ってきた。

あとは、ただー



「跋ーという名の言い訳」



これは昨年(2011年)末、ツイッター上の呟きから生まれた企画(?)です。

Kさんと(すぐばれるのに仮名にする意味ないですが)、同じ話を銀時視点と桂視点でそれぞれ書こう、と。
テーマは「浮気しても嫉妬しない桂さんに逆ギレして襲う坂田」生憎チープな脳が正確に記録してないんですが、そんな感じ。
どちらでも書けると仰る器用なKさんに坂田を押し付け、私奴は想像力と創造力の問題で桂さんの方を強奪。
しかも、筆の速いKさんが先に書いて下さるという好条件。
やれ嬉しやーと思う間もなく、Kさんはその話がまとまった翌(々)日?にはもうUPされるという早業。
人様の素敵SSを読んでしまうとサイトを閉じたくなる病に罹る癖があるので、桂視点を書く準備ができてから拝読させていただきますと…ははは、こちとらダラダラ長文しか書けないのにスッキリ1話でまとまってるし、何故か桂さん視点だし。(どーするよ、え、どうするよ!)と悶々。
腹をくくって、坂田視点で書く!と決めたのが昨日(2012年2月21日)。
でも、やっぱり書きづらい。
なので、Kさんの話をまんまパクって下敷きにして、書き出しもパクって頂いて、本文の科白や地の文も(以下略)…同じ桂視点を書いてから坂田視点を書くというまどろっこしいことに。
しかも同じ桂視点なのに、3話も使うという為体。
もはや別の話だし。

Kさんとこの銀桂と性格も違いすぎてなんだかなぁ、なんですが、いっそその差異を楽しんでいただくというか冷笑していただくということで如何でしょう?と開き直ったのが「莫迦に莫迦という奴が莫迦とは言うけど、端から見たらどっちも大莫迦」(桂視点:前・中・後篇)と「二十代の恋は幻想であり 三十代の恋は浮気である」(銀時視点:未定)です。


そんな訳で?Kさんの「好きよ好きよも嫌いの内」にはこちらからどうぞ

(2014年に閉鎖されました)




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