いと高き ところには栄光
神にあれ
地には平和
御心に適う人にあれ
『ルカによる福音書』2章14節
「ヘレボルス・ニゲル」1
晩飯中にけたたましいサイレン音が聞こえてきた。
どうやらそう遠くない場所で派手な捕り物でもあったらしい。
「そういえば…」と新八が言い、ハッとしたように言葉を飲んだ。
別に変な気ぃ遣わなくてもいいのによ。
「この二週間ほど上納品が滞ってるアル。一体誰がリーダーだと思ってるネ」
せっかくの新八の気遣いをまるっと無視して、神楽が続けた。
まぁ、神楽の方がガキっつーか、よく言えば正直にできてやがるからな。
にしても、おめぇは一方通行の朝貢貿易でもやってんの?上納品ッつってもどうせ酢昆布程度だろうがよ。
「まぁまぁ、神楽ちゃんみんな忙しいんだよ。だってほら…えーと…ほら、師走だし」
「あいつのどこが先生アルか」
新八がもっともらしい理由をなんとか捻りだし、神楽もそれなりに話にのる。
「一部では”先生”って呼ばれてるみたいだよ」
「柄じゃないアルな」
うひひ、と神楽がわざとらしく笑い、主語が明確にならないままの会話が終わった。
どうやらこいつらは、あいつがここしばらく姿を見せねぇことで心配してるらしい。
「普通に元気にしてんじゃねぇの。よくバイトしてるの見かけるぜ?」
「そうなんですか!?ちょっと銀さん、それならそうと早く言って下さいよ!」
「こそこそ会ってるなら会ってるって言えよ、マダオども」
「会ってねぇよ!銀さん、見かけるって言わなかった?いや、マジだから!」
それならーと軽く言ったひとことで、二人から”誰が信じるか”といわんばかりの冷たい目で見られた挙げ句、悪口雑言まで頂戴した。
ついでに誤解もまねぇたみてぇだ。
口は災いの元って、昔の人はいいこと言ったよね。
くそ。
サンタのおじさん、こいつらへのプレゼントは今年もなしでいいですから!
実はここしばらく、毎日といっていいほどおれはあいつの姿を見てる。
あいつらが邪推してるように会ってるわけじゃなく、正真正銘、一方的に見かけてるだけだ。
ぶっちゃけると今日も”見た”。
場所は繁華街の中でもとびきりいかがわしい界隈。
新八たちが見かけないのも道理だ。
前々から指名手配犯の自覚があるのか疑わしいほど色んなバイトに精を出していたが、ここしばらくそれがひどい気がする。
御上のお世話になってねぇことは目出度いが、党首があんなに働きづめなんてなんかおかしくね?某ちび介なんて、絶対こんなことしねぇ。
や、別に心配してるとかじゃねぇけど…。
目に入っちまうとやっぱ古馴染みとしては気になるわけで…。
身体壊すんじゃねぇぞ、ばーか。
仕事の邪魔になんねぇよう、念波だけ送っといた。
師走も半ばにさしかかると万事屋の仕事も増え、時として殺人的な忙しさに見舞われるがその分懐は温かい。
今日は新八と神楽はあごあしつきでイベントへの水増し参加。
一方のおれは大掃除の手伝いや配送。両方手際よくやればそこそこの
時間のゆとりも出来て有難い仕事。
パッパと片付けて、今日こそヅラをつかまえて…と探してみたら…こんな時に限ってどこにもいねぇ。
昨日までさんざんっぱら姿を見せておいて、肝心の今日になっていやがらねぇって、どんな嫌がらせ?
こうなったら意地でも見つけてやる!とさんざんっぱら探し回ってやっと見つけたのは、町外れの公園。
場所が場所だし、この寒空でさすがに遊び回ってる
ガキ共はいねぇ。
そんな静かなー悪く言えば閑散とした公園の一角にあるベンチに座ってた。
しかも、あろうことか女連れで。ヅラの横に座ってる女は、おれらより少し年嵩で、地味な感じ。
どうみてもアッチ系(てか、攘夷系?)の感じはしない。
ごく普通のおばさんと全然普通じゃないお尋ね者の組合せなんて、ぜんざいにイクラをぶち込んだくらいの違和感がある。
なのに、並んだ二人はなにやら真剣に話し合ってるようで…。
あーあ。
なんだかクソつまんねぇもん見ちまった。
なにやってんだ、莫迦ヅラ。
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