「余談:はじめての」

銀さん、なに物思いに沈んでるんですか?らしくないですよ」
「普段からボーッとしてるのに、ひょっとしてこの長雨で全身錆び付いたアルか?」
やれやれ、これだからおっさんは嫌アル、と神楽が続ける。

「ただでさえジメジメしてて鬱陶しいんですからね、そんな憂鬱そうな顔するのやめてもらえません?」
「なに言ってくれちゃってるのぉ!憂鬱ってなに!?おっさん関係なくね?ただちょっとメランコリックになってただけじゃん!大人にはな、いろんな歴史があるんだよ。たまにちょっと振り返ってもいいじゃん」
「ヤングは昔なんて振り返らないアル。前を見据えるだけアルよ」
「ヤングなんて死語使う奴に偉そうに言われたかねぇよ」
「んだとコラぁ!おっさんにあわせてやってる気遣いが解らないアルか?」
「ぜーんぜんわっかりませーん」
「銀さん、大人アピールするんだったら、神楽ちゃんと同じレベルで口喧嘩しないで下さいよ」
ーで、どんなこと思い出してたんですか?

「それがよ、おれの”はじめて”の相手って大抵がヅラだったよなーって…」
「……銀さん、時々忘れてるみたいだから言っときますけど、ぼくらまだ未成年なんで」
「けっ、マジ気持ち悪いアル。しばらくわたしに話しかけないで」
ヅラにもそう言っとくヨロシ、このマダオども!

「違うー!そういうんじゃないから!勘違いだから!」
ね、ちょっと聞いてる?
や、違わないんだけど、今のは違うから!
あれ、おかしいぞ。なんか二人からの視線が痛い。
くそう。
これもみんなヅラのせいだ。
あいつがなかなか現れねぇから、つい昔を思い出しちまったんじゃねぇか。
今度会ったらぶん殴ってやる。

だから、なぁ、早く来いや。
待ってっから。
今日が終わる前に殴られに来やがれ、ヅラ!



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