星宿 8

「土方の間抜け!」

まるで漫画のようなカウントの話まですっかり聞き終えると、銀時は短く吠えた。

「土方ではない、トッシーだ」
「うっせー、どっちでも一緒だ」

話を聞いてみればなんのことはない、桂の足を捻らせたのは土方だ。
桂は相変わらずトッシーのことには白ペンギン同様目が曇っているから土方だとはてこでも認めないが、 銀時は誤魔化せない。今夜は…今夜もまた土方本人だったに違いない。そうでなければ、酔っぱらいの集団から大した騒ぎにもせずにこいつを連れ出すなんて芸当はできっこねぇ。
にしても、土方は一体どうしたというのだろう。連れーそう考えて銀時は思わずムッとするのを止められなかったがーに足を捻らすようなことをするとはまるでらしくない。
なにがあった?

「なぁ、ひ…トッシー、なんか変じゃなかったか?」

多分、土方が他の何かに気をとられていてのことかもしれないと見当をつけ、銀時はそう桂に訊いてみた。
「さぁ…」
わからなかったな、と桂は答えた。
だが、すぐに
「そういえば、トッシーは土方に似てきた気がする」と呟いた。
あったり前じゃねぇか!
やっぱおれの思った通りだ。
今夜もトッシーなんかじゃねぇ、土方だったんだ!
なのに、こいつときたらその区別もつかねぇときてる。

「ひょっとしたら土方の方もトッシーに似てきてるかもしれんな」
「なに、それ?」
何気なく洩らされた言葉に、銀時は憤然とする。
「なに?トッシーに似てきてたらっ…て思うと土方に興味出てきちゃった?」
「そういうわけでは…」
「じゃどういうわけ?」
「ただ…」
「ただなによ?」
「そうたたみ掛けるな!トッシーと土方がその内に融合するのではないかと、おれはそう思っただけで…」
「融合?混ざるってか?」
「うむ」
「…混ざったらよ…」
「うん?」
「もし、混ざったとして、土方にトッシーの面影でも見ちゃったら…」
おめぇどうする?とは訊かず、銀時は言葉を止める。
「どうもせん」
「ほんと?」
「当たり前だ。混ざってしまったら、トッシーはもうトッシーではない。土方も土方では…」
「それだ!」
「え?」
「だからよ、さっきのおめぇの弁で言うと、トッシーが混ざった土方は今までの土方じゃねぇってことになんだろ?」
「…そうなるな」
「そうなった時のことをおれは言ってんの」
「そんな違いがわかる程、おれは今の土方と親しくないぞ」
心外だ、と言わんばかりの桂のもの言いに、こっちの方が心外だよ、と銀時は思わずにいられない。

「なぁ…もしもよ…」
「そんなことはわからん!だが、これだけはわかる」
奴は真選組だ。
はぁ。
そんなのとっくに知ってるし。
普段おめぇが真選組を蛇蝎の如く嫌ってるのも知ってる。
けどよ。

個人同士っつーか、人と人との付き合いになると、おめぇ弱いじゃん。
いつの間にかあんなドS王子に懐かれてっし。
土方はともかく、トッシーは可愛がってすらいるじゃんか。
だから。
だけど。
心配だ、等とは言えない。
言ってはならない。

桂と道を違えたのは紛れもなく己の意志。
それを今更どの面下げて?
それでも。
やっぱり。
心配には違いない。
それはもう宿痾の如く、銀時を離さない。
それでもー
「…銀時?」

告げたくても告げられない言葉は呑み込まれ、代わりに与えられたのは深い口づけ。
先程とは違って、くらいつくような激しさで。
苦しい、と訴えるように銀時の背を打とうと回されたはずの桂の手は、そのままそっと下ろされて行き場をなくした。

銀時の胸の裡など誰よりもよく知っている。
これはそのことの証。
そしてこの奔流のような愛撫にのまれてやるのは贖罪のため。
銀時以外の者といて負ってしまった怪我の。

すまぬ。

口に出せない言葉があるのは桂も同じ。
言葉で交わせない想いを口移しで伝え合う。

ほどなくして
どちらのものともつかない秘やかな喘ぎ声が闇に洩れ始めた。

それを耳にする者は誰もいない。
ただ囲まれた闇にのみー


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