玉響 陸

「…っ………い、ああっ!」
矢も立てもたまらず、おれはまず桂の傷に噛みついてやる。
先手必勝。ガキと侮られない為にも端っからおれのペースに巻き込んでやる。
桂が痛みに上げた悲鳴が耳に心地いい。

「いい声でさぁ、これからもっと聞かせて下せぇよ?」
はあっ、はあっ…。
乱れる息を整えようと必死に喘ぐ桂に囁くと、そのまま乱暴に布団の上に仰向けに転がす。全身に痛みが走ったらしく顰める顔まで綺麗だなんて、ねぇ?
おれは小さな征服欲を満たしたくて、両手を包帯で拘束してみる。白い包帯よりも更に白く見える手首はどこまでも細い。
「おれ…は条件を呑んだ…のだ。拘束するの…はおかし…いだろう?だから、解け」と言うが、生憎おれの心にまでは届かねぇ。
「手錠というのも燃えるんですが、そこはあんたの犠牲的精神に敬意を表して包帯で我慢してやりまさぁ。それに両手を縛っただけで、そのまんまどこかに括りつけてやりたいのも我慢してるんですぜぃ?むしろ、感謝して下せぇ」
怒りを湛えた瞳がおれを見据えてくる。
その無駄な抵抗がそそるってこと、あんたにゃまだ解りやせんか?
なにか言いかけるのを乱暴な口づけで塞ぎ、そのまま舌を差し込む。一瞬だけ噛み切られる可能性に思い至りひやりとしたが、、これは取引だったと思い出す。律儀な桂は過激な抵抗は自重するはず。案の定、桂も同じ思いらしく、必死で堪えている様子におれの下肢がずきりとうずく。散々口中を掻き回し、歯列を舌で辿る。
んん、んーんっ!
息苦しさで必死に首を振るのもおれを喜ばせるだけ。おれはただ好きなだけ貪り続け、犯し続ける。
ひとしきり堪能し解放してやると、肩だけでなく全身を使って呼吸を整えようとする様がひどく艶めかしい。

「はっ!」
息が落ち着いて来た頃を見計らって、襦袢の裾を捲して素足に手を掛けると、桂がびくりと体を跳ねた。
そのまま上腿から下腿へそろ、そろりと形をなぞるようにゆっくりと往復しながら、下着の上からもそっと撫でるように触れてやる。 白磁の肌が粟立つのを感じたのでこうされるのは嫌いか、と問うと、
「拘束されている上、触れているのが貴様だからだ!」とあくまでも強気なことを言う。
そりゃ、おれじゃなけりゃ嫌じゃねぇってことですかぃ?
「言ってくれやすねぇ…じゃ…もしこうやってるのが万事屋の旦那ならどうですかい?」
そんなこと聞きたい訳じゃねぇのに、おれの舌は相変わらず持ち主よりも饒舌と来ている。われながら悪趣味な質問してんじゃねぇか。
「言ってる意味が解らん」
嘘つきですねぇ、あんた。いつか、尋問する時のためにしっかり覚えておくことにしやしょう。
「ヅラ子さんと旦那がいい仲なのは百も承知ですぜ。しかも旦那はあんたにそうとうご執心だ」
あえてヅラ子、と呼び続けることにおれはこだわっている。この人は桂じゃねぇ。おれが抱いているのは桂じゃなく、土方の思い人、ヅラ子さんでさぁ。
そうですねぃ、ヅラ子さん?
「しかし…もし、おれがあんたにこんなことをしたと知ったら、旦那がどういう顔をするかちょっと見てみたい気もしますねぇ」
おれもいい趣味をしてる。そん時ゃ死ぬ覚悟が要りそうだってぇのに。
「ふん、貴様命が惜しくないとみえる」
桂が傲然と答える。ああ、やっぱりねぇ、そうでしょうねぃ。
「やっぱり、そうなりますかい?」
「当然だ」
白々しく尋ねるおれに、断言するのが小憎らしい。自信満々ってところですかい。やれやれ。
「そりゃぁ、また…」
面倒なことになりそうじゃねぇですかい。解ってましてけどねぃ。
「…貴様、なにが嬉しい?」
嬉しい?おれがですかい?とんでもねぇ。土方だけならともかく、旦那は厄介だ。あの人を敵にはしたくねぇもんだ。
それでも、その危険を冒してまでも、なんでおれぁあんたを抱きてぇんだろう。
愛、なんてある訳ねぇのに。そこから先が解らなくて困惑しちまってるってぇのに。
「へい、土方は勿論、旦那でも思うにまかせないような思い人を今から好きに出来るんですからねぇ、どんな責め方をしてやろうかと考えただけで勃っちまいそうなんでさぁ…」
「なっ…」
必死で嘯いたおれの出任せに、桂の躯が一気に強張る。
「逃がしゃしませんぜぇ。これから楽しませてもらうんですからねぇ、存分に」
ああ、本当にそれだけのことで勃っちたじゃねぇですかい。
責任、とってもらいやすからね。

「…くっ………ふ…」
胸のとがりをいじくり回し、舌先でつついてやるうち、桂の息は絶え絶えになっているというのに、声は抑えられている。その自制心の強さに呆れ、おれは焦れる。
「だぁから、声を聞かせて下せぇって言ったじゃねぇですかい!」
おれはそれが不満でつい声を荒げ舌打ちをする。
「無理を…言う…なぁ!」
その苦しそうな声も悪かぁないですが、おれの欲しい声とはちょっと違うんでさぁ。
「普通は声を抑える方が無理ってもんじゃねぇんですかい?」
とさらに手の動きを強めると、潤んだ目でギッと睨み付ける。その目で噛み殺されちまいそうだ。それも悪くねぇ気がしてしまう。
なぁんて、おれぁ一体どうしちまったってぇんだ。

「へぇ、いい目をしやすねぇ。そういう目、嫌いじゃないですぜ。なにせ、おれはそんなお高い奴のプライドを踏みにじってやるのも大好きなんでさぁ」

だから、そんな目はおれを煽るだけなんだって、いい加減気付いたらどうですかい、桂ぁ。


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