玉響 漆

「わっ」
「確かに声を出せとは言いやしたが、そんな色気のない声を出されても別に嬉しくないですぜぇ?」
片足を掴んで肩に担ぎ上げると、驚いた桂が声を上げた。
そのあまりの色気のなさには苦笑するしかねぇ。
「何故、貴様を喜ばせなくてはならん!」
そんな強気な科白は吐くに任せて、さっさと膝頭を桂の肩に付きそうな程折り畳んでやる。
「あんた、体柔らかいですねぇ。こりゃ、あれこれ楽しませてもらえそうだ」
一瞬、「い」をいう時みてぇに口を両端に開くのが見えた。
ちょっと脅かしすぎやしたか?少しばかり幼い仕種を見せてもらっておれは笑いが止められねぇ。
片足を肩に乗せたまま、下肢を布越しに触れ合わせてやる。
己の下肢が、熱く火照って存在を主張しているのを感じる。おれは、その熱に後押しされるように、擦れ合っている腰を上下に揺らしてやると、桂の中心も熱を持ち始め、形を変え始めた。
おれの全身を貫くような快感が走しぬけ、脳髄が痺れるような甘さを味わう。
「…なんか、ここ、押し返してきてやすぜ?なんでしょうかねぇ、これ?」
そう言いながら、下着の上から熱い物に触れてやると、ふいと横を向いて無視を決め込む。
「ふん、いいでしょう。それくらいでないと楽しめませんや」
「さっさと犯って、さっさと終わらせろ」
わざと嫌らしい笑みを浮かべて挑発するおれに、憤慨したらしい桂が悔しそうに言うのがまたそそる。
「どうしてですかい。夜はまだ始まってもないんですぜ」
心外ですぜぃ。まだまだこれからじゃないですかい。
言われて初めて周囲がほんのり薄暗くなっていることに気付いたのか、桂がわずかに縁側の方に目を向けた。
気にいらねぇなぁ。
おれ以外のことに気を取られるなんて、この期に及んでしりゃないでしょうが。許しがたい行為ですぜ?
「ひっ、ひあ!」
おれは乱暴に桂の下着の中に手を侵入させた。
初めて、と言っていいほどの甲高い声が部屋に響く。残響がやたら心地いい。
「やれば出来るんじゃねぇですか」
ああ、そんな声をもっと聞かせて下せぇ。
下着に入れた手で、そのまま桂のものを掴み出して口内に迎え入れた。なんの躊躇いも感じないことに自分でもびっくりだ。
男なんて、抱きたいと思ったことも、ましてや抱いたことなんてねぇってぇのに。
「うぁっ…あっ…」
不自由な手でなんとか敷布を握りしめ、歯を噛み締めて堪えようとして堪えきれない声がかすかに漏れる。
が、足りねぇ。もっと聞かせてくれやせんか。もっと、もっとでさぁ。
「あんた、意外と踏ん張りますねぇ。じゃ、これでどうです?」
宣言し、再び中心部を含んで舌で嘗め回し、時折、わざと音をたてるようにしゃぶりついてみせる。
桂は体を弓なりにして熱を逃がそうとしているが、傷が痛んで上手く逃がせないのか、「くそ!」と苛立ちの声を上げ、あまつさえ舌打ちまでしれくれる。
ぐちゃぐちゃにしてやりてぇのに、あんたってお人はとことん思い通りにいかねぇ。
「まだまだ…余裕ですねぇ。それに、そんな可愛げのない言葉は聞きたくありやせん」
それならーと先端に指先を押し当て、軽く抉るように刺激しながら根元から先端に向けて、指できつく締めて擦り上げてやる。
「………っ………」
やるせなさそうな小さな声が聞こえてくると、先走りの淫水がとろりと溢れておれの指先を濡らした。
「随分滑りが良くなってきやしたぜ。体の方は割と素直な質じゃないですかい?」
ぬちょぬちょと規則的な音をさせながら、おれは桂のものを擦り上げ続ける。
「…ぁ……おお、きな…おせ、わ…だ……」
まだ抗う気力を残していることに焦燥感よりむしろ闘争心をかき立てられる。
どうにかしてこの気力を奪ってやりたい衝動に駆られ、おれは桂自身をしっかり咥え直すと軽く歯を立てた。
「うあぁっっ!」
ひときわ大きく、悲しげに啼くと、桂はおれの口中にそのまま熱を放った。
受け止めた熱は、そのまま桂の口を強引にこじ開けて口移しで戻してやる。
「……ほっ…ぐっ…うっぅ」
仰向けのままで嚥下するのはさすがに辛かったらしく、噎せ返り苦しむ姿がおれを満足させる。
が、まだだ。まだ足りねぇ。

「その声も、あんまりそそられるもんじゃありせんねぇ…」とわざと咎めるように言うのに睨めてくるその様が、なによりおれを狂喜させる。
だからー桂の耳元に口を寄せ
「でも、その目にはそそられまさぁ」と呟いてやった。


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