なんで。なんでこんなことになってるんだろう…。
な…んで?
よくわからないけど、でも、でも…
僕の目は誤魔化せませんよ。
トッシーなんかじゃない。
今、僕等の目の前にいるのは土方さんじゃないですか。

春ごとに 花のさかりはー其のいちー

今日は朝から良いお天気で、僕はめずらしく弾むような足取りで万事屋へに行った。
銀さんはまだ眠っているようで、寝室がわりの座敷からは物音一つしてなかった。神楽ちゃんの部屋ー押し入れだけどーも同じく。
だから、布団を干そうとか、洗濯機をまわそうかという僕の小さな野望(?)は即座に潰えたわけだけれど、それでも、二人を起こさないように 気を付けながら乱雑に散らかった雑誌類を片したり掃き掃除をしたりしていい汗をかいた。
そろそろ大きな音をたててもいい頃かなと僕が洗濯物を洗濯機に放り込み始めたとき、玄関先からこれが聞こえてきた。
「ごめんくださーい、銀時君いますか?」
桂さんだ。
そういえば、あのぐうたらな銀さんが珍しく花見に行こうと桂さんを誘ったと聞いている。
当然のように僕たち四人でという話だったのだが、その話を銀さんから聞かされた僕と神楽ちゃんはその場で丁重にお断りした。
なんでよ?と不思議そうに訊く銀さんに、僕たちはとっさに「姉御と約束があるね!」「あいにくその日は待ちに待ったお通ちゃんのコンサートなんですよ」とワンパターンの答えを返した。
勿論、本当じゃない。
このところ銀さんが、なんだか物思いに耽ることが多いことに僕は気付いていたので。
神楽ちゃんも気がついていて、時折、銀さんの方を心配そうな目で見ていることにも。
あの人があんな風になるのは大抵桂さん絡みだと、僕らは嫌という程知っている。あの紅桜の一件以来。
だから
ヅラと、という銀さんの一言に大いに安心した僕たちは、その場で口からでまかせを言ったのだ。
閻魔大王がなんぼのもんじゃい!
あれは嘘なんかじゃなかったんです。
僕たちが一緒にいたんじゃ、ただでさえ素を出さない銀さんがもっと出しづらくなるだろう。
そう思う僕たち二人の思いやり、そう善意だったです。
けれど。
聞いてない。
聞いてませんよ!
今日がその日だったなんて!!!!
こんな処で掃除してたらダメじゃないですか、僕。
コンサートに行く前のそわそわワクワク感を演出してなくちゃダメじゃん!
それ以上に約束してる癖に寝穢く寝てる銀さん、あんたが一番ダメじゃんか!!!
昨日、我を忘れる程しこたま飲んで帰ったのが悪いんですよ!
よく無事に帰ってきたなと感心する程酔ってましたよね。
やばい、やばいよこれ。また二日酔いだよ。それ以前に起こしても起きないよ、絶対。二日酔いの日は、冬眠中の熊みたいに起きないんだからあの人!
でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。なんとしてでも起こさなくちゃ。絶対に!
「はーい、桂さんちょっと待ってて下さい。銀さんまだ起きてないんですよ」
しょうがない人ですよね、ちょっと起こしてきますねーと焦りをひた隠して玄関先に声を掛けると、僕は襖の引手に手をかけて左右に勢いよく開いた。
襖はスパーンと小気味よい音を響かせたが(それはまるで銀さんが桂さんの頭を叩くときの音に少し似ていた)、それよりもっと大きく響いたのは僕の叫び声だった。


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