春ごとに 花のさかりは 其のに

うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!

なんでですか、なんでこんなことになってるんですか!?

僕の目の前には寝相も悪く惰眠を貪る銀さんの姿。
それはいい。
予想通りだ。
けど、その横にさっちゃんが添い寝してるなんて予想外だ。
てか予想出来るかそんなもん!!
どうしよう、やばい。
やばいよね?
> 「あは、あははは、もう銀さんたら夕べ飲み過ぎるから起きられないんですよ。桂さん来てますからいい加減起きて下さい。待たせちゃ悪いですよ」
> 桂さんに聞こえるように大声で苦しい芝居をしながら、僕は必死で頭を回転させる。
どうしよう、どうすればいい?
この状態を巧くまとめるなんて、十代の僕には重荷過ぎですって。
どうしよう、これ以上悪い状態なんて考えられない難局に僕は直面しているぞ。
男志村新八!

乗り切れ、耐えろ!
やり抜くんだ!
そんな僕の固い決意はたった数秒で脆く崩れ去った。
「うるさいわねぇ、耳元でギャーギャーと」
銀さんは必死の僕の呼びかけに無反応だったのに、起こしてはいけない方が先に起きてしまった…。
あまつさえ「どれ、おれが起こしてやろう」と痺れを斬らして上がり込んできたらしい桂さんが こっちに向かってくる気配が…。
絶体絶命!
僕は修羅場を覚悟した。
のに。

「ん?なんださっさんではないか」
いつもと変わらぬ落ち着いた声が背後から聞こえてきた。
その声には驚きなんか、ましてや嫉妬など微塵も感じられない。
むしろ…
「だぁれ?あなたわたしのこと知ってるの?」
不審そうなさっちゃんさん。
もう、眼鏡かけて下さいよ!
そうそう。
さっちゃんさんは眼鏡を手探りでかけると、改めて僕の背後にいるはずの桂さんをじっと見た。
「あなた、だあれ?」
は?
この二人、初対面だっけ?
いやいや、エリザベス先輩救出作戦の時、さっちゃんさん手伝ってくれたじゃないですか。
なんか無理矢理銀さんと桂さんのペースに巻き込まれて、それでも手伝ってくれたのに。
イエロー!とか呼んでなかったっけ、桂さんのこと?
あ、でも、銀さん以外の人類は区別がつかないって言ってたっけ?
ああ、それで?
それに…そうだ!桂さんの方だって、さっちゃんさんが銀さんのストーカーだって知ってるはずじゃないか。
焦って馬鹿みたいですよ、僕。
なんだ、もう。
慌てて損しちゃった。
「何言ってるんですか、さっちゃんさん、この人は…」
「ふん、どうせあたしの銀さんを狙うどこぞの泥棒猫ね!」
へ?
なに言ってんのあんた。
驚く間もなく「泥棒猫じゃない」
ヅラ子だ、と桂さんが応えた。
その名乗りに恐る恐る振り返ってみると、そこにはこれまた僕の予想を超えた女装の桂さんが腕組みをして立っていた。
なんて
なんてとんでもない朝なんだ。
周囲がこんな状況にもかかわらず、相変わらず眠ったままの銀さん。
そのだらしのない寝顔に、そのまま永遠に眠りつづけていろ!とほんの少し殺意が湧いてしまったのは、仕方がないことですよね。
はぁ。


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