白の風景 あるいは白い不安 1

雪が右に左に戸惑い踊り、見る者を幻惑の世界へと誘う。
たったそれだけのことが、普段の見慣れた風景をまるで見知らぬ土地のように思わせた。
そんな白一色に塗り込められたような世界を二人きりで眺めていると、どこか夢のようだ、と小太郎は思う。
まだ眠いだの寒いだのと文句を言う銀時を、有無を言わさず縁側に引きずり出してよかった、とも。

朝、あまりの静けさに目が覚め、肌を刺すような寒さに震えたのも束の間、障子の色がいつもよりまぶしい白なのに気付いた。
朝餉もそこそこに飛び出してまっすぐこの友の所に向かったのは、なにもめったにない積雪の量に心躍った為ばかりではなかったのだが。

「止まないな」
小太郎は空を仰ぎ、降りそそぐ粉雪に顔をさらしたままで、側にいる銀時に語りかけた。
自分でもとってつけたような話の切り出し方だとは思うが、いたしかたない。
「こんなに積もったところを見たのは初めてだ。美しいものだな」

なおも言葉を継ぐ小太郎に、だが、銀時はなにも答えず、じっとたたずんでいる。白の風景をぼんやりと見ているようではあるものの、その瞳になにをうつしているのかは判らない。ただ小太郎の側にいるだけで、心は遠くにあるかのようだ。
全く、なにを考えているのやら。

無理矢理寝床から引っ張り出したことを怒っているのだろうか、と考えて、そうではないとすぐに思い直す。
怒っているのなら、ぶつぶつ文句は言いこそすれ、こんな風に大人しく並んで立ち続けているわけがない。
なんのかの言いながら、こんもりと綿帽子を被ったような外の風景に目を丸くしてから、愚痴を言うのをやめたのにだって気付いている。

では、やはり。
おれがあんなことを言ってしまったから、それで…。

「だれだ?」
思いがけない銀時の言葉に、後先考えずに聞いてしまったのだった。


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