「今から俺がお前の左手だ」

その言葉を聞いて、おれがどれだけ嬉しかったか解る、おめぇえ?

けど、それだけじゃあ足りねぇんだよ。

おまえは俺の半身にも等しい存在なんだからよ。



「シュンポシオン」銀時の場合



池田屋の後、俺は色々考えた。


事件に巻き込まれたのは迷惑以外の何ものでもなかった。

けど、おめぇの元気な顔を久し振りに見れて、そりゃ嬉しかった。

あれから俺は色んな事を思い出しちまった。

幼い日のこと。

おめぇのこと。

戦争のこと。

おめぇのこと。

そう、おめぇのことばかり。


俺のそばにはいつだっておめぇがいたんだ。


俺がおめぇにどんだけ惚れてたかってこと。

なのに、結局おめぇの前から消えちまったこと。


悔やんでも悔やみきれねぇ過去。


会わなければ、忘れたふりで生きて行けたのに。

もう、できねぇ。

俺はおめぇのいない日々には戻れねぇ。



おれは、なんとかしておめぇに会えねぇかと思い続けた。

でも、叶わずに鬱々と時を過ごした。


そんな時、仕事で面倒くさい事件に巻き込まれた。

怪我を負った俺を偶然拾ったのはおめぇの仲間。

目覚めた時、おめぇの姿を目にして俺は喜んだ。


おめぇの組織がたまたま春雨の動向を探っていたお陰で俺は命を拾い、再びおめぇに会えた。

体はボロボロだったが、そのお陰でおめぇから望外の言葉をもらった。


俺の左腕になる、と。


正直、驚いた。

なぁ、おめぇ俺を恨んでねぇの?

俺が憎くねぇの?

会えたら聞いてみたいと思っていたそんな事一切合切、 その言葉でどうでもよくなった。

昔は昔、今は今だ。

俺の体を狂おしいほどの喜びが駆け巡った。


嬉しいぜ、桂。



すぐさま、二人して春雨の船に乗り込み、思うさま暴れた。


その際にお揃いのような変装をさせられたのには少し閉口した。

が、俺たちが対であることの証のようでまんざらでもなかった。

おめぇと俺、同じ敵に向かうのに未だ余計な言葉なんざ必要ねぇ。

俺たちにあるのは阿吽の呼吸だ。

好き勝手思いのままに戦うことが互いの助けになりはしても、決して邪魔することはねぇ。

俺たちは二人で一つだ。

共に戦ったことで、頭よりも体がそれを痛いほど思い出させてくれた。



新八と神楽を連れて万事屋に戻ると、定春が部屋中にゴミを散らかしていた。

疲れきってはいたものの、仕方なしに片付け始めて、それが菓子折の包みと紙袋の残骸であることに気がついた。


松栄堂という文字で俺には全てが解った。

おめぇから来てくれたんだな、桂…。


なぁ、おめぇが俺を恨んでねぇって思っていいのか?

おめぇは今でも俺を待っててくれるって?



傷が癒えるのなんて待ってられねぇ。

あいつはもう、自分から俺の所に来てくれていた。

今度は俺が行かなきゃなんねぇ。


もう、左手だけなんかじゃ、足りねぇよ!



俺が担ぎ込まれた屋敷が見えてくる。

明かりもついている。

なぁ、おめぇ、まだそこにいるか?いてくれるか?桂!

俺は祈るような気持ちでそっと障子を開いた。


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