諒恕 中篇

「もう布団敷くの面倒くせぇから、おめぇおれの布団で寝ろ、な」
部屋に入るなり銀時は、つい先ほどまで自分が潜り込んでいた、今は抜け殻のようにこんもりと盛り上がっている布団を指して桂に言った。
「さっきと話が違うではないか」
「え?おれ代わるって言わなかったっけ?」
「そうも言ったが、貴様は明るいところでも寝られるから取りあえず部屋に戻るということに落ち着いたではないか」
ちっ、よくまぁ覚えてやがるぜ、睡眠不足の頭で。
ヅラの癖に。
「えー、そうでしたっけ?銀さん眠いから覚えてないー」
「貴様!」
「ヅラ、おめぇががんばんないといけねぇのは百も承知だけどよぉ、それも程度もんだぞ。もういっぱいいっぱいだろうが。身体壊しちゃなんにもなんねぇし、睡眠不足のへろへろで戦場に出続けるなんざとんでもねぇ。だから、今日は寝ろ!」
「承知の上で無理を言うな!」
「大声出さねぇの。この地図みてねぇなもんはおれがちゃんと見とくから、な」
そう言って銀時は部屋に小さく灯りを灯すと、その前に地図を持って座り込んだ。
桂は返事をしあぐねているようで唇をグッとへの字に曲げて銀時を睨んでいる。
銀時も、それ以上言葉は継がない。
言うべきことは全て言った。
これ以上たたみ掛けると桂がへそを曲げる可能性が高い。
そうなるとこじれてねじれて、手が付けられなくなるのは長い付き合いで嫌というほど知っている。
しばらくそうして睨み合うような形が続き、先に焦れたのは桂だった。
「銀時…無理だ…気になってどうせ眠れまいよ…だから…」
「わーったよ、それがおまえの返事ね。おれ、もう説得は諦めるわ。後は実力行使させてもらっから!」

静かに凄む気迫に押され、思わず後ずさりをはじめる桂の沈腰を銀時は捉え、布団の上に押し倒した。
すぐさま跳ね起きようとするのに力任せに押さえ込んで逃がさない。
地図はとっくに部屋の隅に放り投げられてしまっている。

「……っ……んっ……」
まだ何かを言いかける桂の唇を問答無用とばかりに塞ぐと、苦しげに開けられる隙間ら舌を差し込み、そのまま口内を蹂躙した。
弱っている身体からあっけなく力が抜けていくのになおも許さず、ねじ伏せたまま執拗に唇を貪っていると桂の身体が震えはじめた。
ああ、そうか。
こいつは…
おれたちは…まだ…
初めて身体を繋いでから、こうして桂に触れるのはあの日以来まだ二回目だ。
あれから誰も彼もが戦渦を静めるのにかかりっきりで…。
こいつまだまだ…
全然慣れてねぇんだっけ…。
銀時は桂にのし掛かるのを止め、身体を押さえ込んでいた手を離した。
その様子に、それまでぎゅっとつぶられていた桂の目が開いた。
その目をじっと見つめながら、「怖いか?」と出来るだけ穏やかに訊いてやる。
桂は「怖い」と小さく呟いたが、すぐに「どうにかなりそうな自分を想像しただけで、どうにかなりそうだ…」と付け足した。
「…どうにかなっちまえばいいじゃん」
「貴様は!」
「大丈夫、自分がどうにかなっちまってなんて分かんねぇくらい滅茶苦茶にしてやっから」
「ぎ…」
みなまで言わせず再び桂の唇を軽く塞いで黙らせると、「んで、今日のところは眠ってくれよ。グッスリ、な」とあやすように言い、そのままうむを言わさず鎖骨を甘噛みした。

ビクッと肩を竦めるのに「大丈夫、大丈夫」とお題目のように繰り返し唱えながら銀時は手を桂の胸元に滑り込ませ、薄い胸の先端をつまみ上げる。
「っ…ひぁっ…あっ!」
桂の身体が大きくのけぞり、身をくねらせるようにして喘ぎ始める。
「な、も、や…め…」
「やめねェ。おめぇは頭空っぽにしてりゃいいんだよ。得意だろ、頭空っぽ」
「ふざけ……は…あっ…ぁ…!」
これまたお得意のお説教も言えないように、桂をしっかり組み伏せて、懐に突っ込んでいる手をかき混ぜるようにして胸元をゆるめていく。
部屋にもっと灯りをつけておかなかったことを後悔しながら、銀時は露わになった胸に頬を寄せて何度も何度も肌を強く吸いあげた。
いくつもの紅い痕がその肌に火印のように残っているのを確認して、銀時はやっと身体を起き上がらせた。
桂の瞳は快楽に蕩けはじめ、もう抵抗する素振りすら見せない。
「いい子だな、ヅラぁ。すぐ気持ちよくおねんねさせてやっから大人しくしとけ。な」
穏やかな物言いとは裏腹に、初心も忘れて激情に身を委ねきった銀時は、乱暴とも思える手つきで桂の着衣を全て剥ぎ取っていった。


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