心契 その4

「すまん銀時」
いきなり謝られて銀時は面食らった。
アッパーの一つくらいは覚悟してたんですけど。あれですか、「あなたの気持ちは嬉しいけど、これからもいいお友達でいましょう」的なあれ?
ありきたりな定型文的お返事を予想して肩を落としかけた時、「おれはこれまでにないほど酔ってるらしい」と桂がボソボソと言った。
はぁ?おれはおめぇの反応を心臓バクバクさせながら待ってるってぇのに、なに、それ。言ってることが解んないんですけど。
「幻聴が聞こえる」
って…。えええええ!?幻聴って、幻聴?一世一代のおれの告白を幻聴?
「ちなみに、どんな幻聴よ?」
銀さんもう脱力ですよ。あんなこっ恥ずかしい思いしたってーのに!
「…言えぬ」
桂は困ったように目を逸らす。聞こえた幻聴とやらの内容が自分でも恥ずかしいのか、頬がさっきよりも赤い。
「もし、それが…」
そう言いながら、銀時は桂の視線の先に回り込んでいく。
「おれがおめぇに惚れてるっていうやつなら…」
桂が息を呑むのが聞こえたきがする。
「…幻聴なんかじゃねぇからな!」
その細い両肩をがっちり掴むと、自分の方をしっかり向かせてキッパリと言い聞かせる。長い付き合いでわかってはいたけれど、なんて手間のかかる奴なんだ。

「え…銀時…な…?」
困惑してしどろもどろになっている桂に銀時はお構いなしに、深く口づける。言葉で言って解んねぇーなら、その身に教え込んでやるしかない。
ふ、う…。うん、う。
息が出来ず苦しそうな声を漏らすが、銀時は止めてなどやらない。それどころか、なんとか逃れようとする唇に舌を差し入れ、そのまま貪り続けた。

せっぱ詰まったらしく身を捩り始めるが、両肩を押さえ込まれているのでそれも思うようにならない。
いつの間にか抵抗する力を削がれ、ぐったりしはじめた身体を預けてきた桂を、銀時はやっと解放してやった。
「言ったろう?おれぁ、マジだぜヅラぁ」
はぁっ。は、あ。はあっ…。胸を忙しなく上下させながら呼吸をしているのを見ながら、銀時はたたみ掛けていく。
「ずっと前からおめぇだけを見てきたんだ」
「し、しかし…お前は」
桂の声は少し上擦っている。
「おれは?」
銀時は静かに聞き返す。
「戦に来るまでにもたくさんのおなごと付き合っておったではないか、なのに…」
「なのに、なに?」
「なのに、ずっと前から思ってた、だなんておかしいだろうが!」
「おかしくねぇよ」
「それに、おれは男だぞ。おなごの代わりにされるのなど真っ平御免だ」
そう言うと唇をグッとへの字に曲げて銀時を睨んでくる。
あーあ、解っちゃねぇなぁ、ほんと。
「ヅラ、それ逆」
「逆…とは?」
「あっちが代わりなの、おめぇの」
「あ?」
あ?じゃねぇよ、耳の穴かっぽじってようく聞いとけよヅラぁ。
「おれの付き合ってきたおねえちゃん達みんなが、おめぇの代わりなの。だから逆」
「い?」
あーあ、マジ面倒くせぇ奴。
本格的に困惑してきたらしい桂がそのまま固まってしまうのを見て、銀時は嘆息した。


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