心契その9

銀時は顔までもが強張っているのを感じそのことを酷くみっともないと思いながら、それでもその顔をさらしたまま桂に向き合う形で腰を下ろした。

「あれからずっと考えた」
だろうね、お前は生真面目だから。それこそめちゃくちゃ考えたに違いない。それは解る、と銀時も思う。
「正直…」
「正直?」
「よく解らなかった…」
あー、そー。
そーだろうね。解らない…か。
「だが、おれはお前のことは嫌いではない。てか、好きだ。多分、他の誰よりも一番。それは確かだ。だが、その思いがお前の思いと同じかと問われれば自信がない…」
最後の方は消え入りそうな声になりながらも桂は一所懸命に言葉を継いで、そう言った。
「だから…だから…」
必死な様子の桂に、銀時は出来るだけ穏やかな笑みを浮かべて「もういいよ、ヅラ」と言ってやる。
「もういいんだ。一所懸命考えてくれて、お前の口から好きという言葉が聞けた。おれの好きとは違うかも知れねぇけど、それでも、おれぁそれでいい。だから、もう、いいんだ」と。
そう言いながら銀時は後悔していた。
さっきの笑顔を見たまま部屋を出て行くべきだったのだ。ひょっとしたら最後に見た表情ってことになるかもしれないのが、こんな困ったような顔だというのは辛い。こんな顔をさせたのが自分だということも含めて。
「よくない!」
思いがけない剣幕に、銀時は桂をなんとか宥めようと話し続けていたのをピタリと止めた。
「よくないのだ、それでは。それに、解らないままにお前をここから行かせてしまうのは嫌だ」
「そうは言ってもよぉ…」
銀時はそれ以上何も言葉が出てこない。
だって、解んねぇもんは仕方ねぇだろうに。全くヅラって奴はとことん融通が利かねぇ。
「おれがさっきお前のことを好きだと言ったのは嘘ではない。だから…」
「…だから?」
「…努力してみる」
「努力?」
相変わらずヅラの考えることは解らない。何をどう努力するってんだ?そもそも努力するようなものなのか?
「おれはなんとかおまえに応えたいと思うのだ、銀時」
「はぁ?」
なんかもう間抜けな声しか出てこねぇ。こいつは何を言ってるんだろう?
「おれの好きがもし、お前のと違っていてもいいと言うのなら…」
こいつ!?

「おれは」
言うな、ヅラ。それ以上は言わなくていいから。
「お前の思いを受け入れようと決めた」
あーあ、言っちまった…。
「本当によく考えた。本当だぞ!おれは、お前の為なら本当にそれ位出来るほどにはお前が好きだということは解った」
桂はそれこそ必死になって”本当”を繰り返す。
それが逆に嘘くさいと銀時には感じられる。自分で自分をも誤魔化ししているようだ、と。

…けど…。
おれはおめぇのその馬鹿げた優しさを真に受けちまうような奴なんだぜ、ヅラ。
それこそ、”本当”は無理をするなだの、その気持ちだけで充分だ、などと言ってやるべきなんだろうが、悪ぃ、おれにゃあ言えねぇ。
「それ、ほんと?」
「ああ、本当だ」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとだ」
「ほんとにほんとにほんと?」
「貴様!まだ言うか!」
柳眉を逆立て始めた桂を、銀時は思いっきり抱きしめた。
「…約束だかんな」
切羽詰まったような自分の声が聞こえてくる。
「ああ、約束だ」
頷く桂を抱く手に更に力を込めた。
すまねぇ、おれは狡い奴だな。
だから、お前のおれに対する思いがただの厚意であって好意ではないこと、愛情ではなくて友情だと充分知った上でなお、おめぇに縋っちまう。

「…あんがと、ヅラ…」
本当に馬鹿な奴。
おれの、おれなんかの為に…。


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