心契 その11

予め伝えられていた集合場所に行ってみると、既に仲間たちが銀時を待っていた。
篝火に照らされた顔にはどこか陰鬱な影が映り、一人一人がまるで死人のように見えている。
まだ、蝦蟇は来ていない。結構、結構と銀時は一人頷く。
「おい、おめぇらなんて面してんだ。誰の葬式ですか、このやろー!」
そう言いながら近付いていくと、みなが一斉に銀時の方を向いた。
例のアッパー男が、「誰のって、おれらのですよ」と陽気に答える。
ああ、こいつのこういうところが蝦蟇に嫌われそうだよなぁ、と銀時はひとりごちる。おちゃらけて見えるのかもな。おれはこういう奴好きだけどね。

「なぁに言ってくれちゃってるの?おれたちが死ぬわけないじゃん」
「そりゃ、坂田さんはめちゃくちゃ強いから…。けど、おれらは…」と誰かが控えめに言う。
みな、同感らしく、それ以上誰も何も言わない。
あーあ、と銀時はでそうになる溜息を堪える。
いい天気になりそうなこの朝に、こいつらときたら……ま、無理もねぇ、か。
銀時は、「おれたちは死なねぇ」ともう一度繰り返した。
「死にゃしねぇよ、おれも、おめぇらも。誰一人。おれが死なせねぇ」
「坂田さん…」
「ありがとうございます」
「そのお気持ちだけでおれらは…」
それらは銀時が桂に言ってやりたくても言ってやれなかった言葉。こいつらがこんなに簡単に言えるのに、と場違いにも銀時は自分を恥じた。
「なんか勘違いしてねぇか?おれがいつおめぇらを守るって言ったよ?てめぇの命はてめぇで守るもんです!」と大声できこえよがしに言うと、すぐに「いいか、よく聞けよ、おめぇら」と小声で付け足した。
みなは、元々青ざめていた顔をもっと青くして銀時の口元を食い入るように見つめてくる。
「おれ、一人で行くわ。てめぇらは途中で逃げろ」
その一言で、周囲に見えるどこ顔も更に恐怖の色を濃くしていく。
「行くのはおれだけ。けど、敵前逃亡は死罪、見つかるとやべぇ。だから途中までは一緒に来い。で、本隊から充分距離が開いたら隙見て逃げろ。そのまんま母ちゃんのとこ帰っちまえ」
みなは恐怖の色はそのままに全身で話に聞き入っている。
「蝦蟇は押っ取り刀で駆けつけるなんて偉そうなこと言ってるが、端からおれたちを見殺しにする腹だから、絶対に離れてついてくるずだ。それに、こんなこと言うのも鬱陶しいが、今日の戦闘は絶対に激しいもんになる。犠牲者だって半端ねぇだろう。だから、おめぇら全員蝦蟇の思惑通りに討ち死にしたってことにしとけばバレねぇだろうよ。もしバレても追っかけてなんかこねぇし」
「けど…」
「それじゃ、坂田さんが…」
怯えたままの表情で、それでも自分を気遣う素振りを見せてくれる者がいることを銀時は内心で喜んだ。
「おれ?」
銀時はみなの顔をゆっくりと見渡してニンマリと笑ってやる。

「おれなら大丈夫。おめぇらもさっき言ったじゃん、おれはめちゃくちゃ強えだろうが?」
だから、大丈夫だーと言い切ってみせる。
どこかで高杉が「てめぇらしいなぁ、銀時」と皮肉っぽく笑っている気がした。
それで、やっとみながいつもの顔色を取り戻しはじめた。
そこそこ元気になったところで、銀時たちは指揮官のお出ましとやらを待った。

ゆくりと現れた蝦蟇は銀時たちを見ると、奇妙な顔をして見せた。

おれ達のしょげかえった顔を拝んでやろうと楽しみにしていたのに当てが外れて悔しいのか、それとも何か怪しんでいるのか。面は蝦蟇だが、こいつもそれなりに優秀なはず。上の方の連中が唯のぼんくらに指揮官を任せるはずがねぇ。侮っちゃなんねぇ、と銀時は睨んだ。
指揮官蝦蟇様が、なんだらかんだらと長ったらしい大演説をぶつのを聞き流し、銀時はただ一言だけを聞き漏らすまいと珍しく神経を昂ぶらせていた。
「出陣!」

三献の儀もなにもなかったが、待っていたその一言で、銀時をはじめその場にいた者た全員が、それなりに出陣前の高揚した雰囲気に呑まれていった。
東の方から僅かに光が差してくる。その光のあまりの眩さに誰も彼もが思わず目を瞬かせた。
「おめぇら、ついてこい!」
銀時は一緒に死ぬようにあてがわれた部下たちを引き連れて、本隊から離脱すると一足早く敵の元へと進撃を開始した。
ふと、自分達より先に出ていった高杉隊のことが気になった。

あいつらもこんな風に出て行ったんだなぁ…。
そんなことを思いながら、自分たちを見守る本隊の最前列、蝦蟇のすぐ隣に立っている桂の姿が目に入った。
グッと唇を噛み締め、睨み付けるように自分たちを見送っている。その姿に、銀時は再び強く誓った。

絶対、生きて帰ってやる。


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