PHILTRE D'AMOUR chapitre7

「どういう意味、とは?」
心底解らない、という顔で桂が訊く。
「なんで手作り?なんでそんなの仕事場に持ってきてるわけ?」
「…だから、たまたまだ」
「たまたまで手作りチョコなんて持ち歩いてる奴がいるかよ。そんな奴がわんさかその辺歩いてるわけねぇだろう!」
「や、今日はいるだろう」バレンタインデーだからな、と桂は真顔で言い、かまっ娘倶楽部帰りの客達だって持ってるだろうが、とご丁寧に付け足す。
こいつはどうしてこうなんだろう?と、先ほどまでとは逆に銀時が頭を抱える。もう、いい加減にして欲しい、と。こんなズレて拗くれた遣り取りはそろそろ止めにしてもらいてぇ…と。
「あのな」
今度は銀時が桂に解りやすく話をしてやる番だ。
「かまっ娘倶楽部で配ったようなのはこの際論外だ。貰う方も、渡す方も義理を承知でのお遊びみてぇなもんだろうが」
な?と銀時は桂の顔を見て反応を確かめる。
桂は銀時の言うことが腑に落ちたらしく、そう言われればそういうものかもしれんな、と素直に頷いた。
おし、関門一つ突破!
「でな、おめぇは今日のためにチョコを作ったわけだ」
「うむ」
「でも、それは渡さなかった。ここまではいいか?」
いい、と桂は首を縦に振る。
「そんじゃ、訊くけどよ、それはそもそも誰に作ったチョコだったわけ?」
「貴様だ」
「おれ?」
意外な答えに驚く銀時に、桂は屈託なくまた肯いた。
「じゃ、さっきおめぇがおれにくれたのは、何?」
「チョコレートだが?」
即答する桂に、だよな、と銀時も思う。あのロゴは読めないだけで、銀時もよく見知ってはいる。確かにチョコレートの銘菓には違いない。
「なんで途中で替えちまったの?」
「不服か?」
「不服ってこたぁねぇけど…不可解だ」
「すまん」
桂は銀時に頭を下げる。
「や、謝るようなもんじゃねぇよ。おれはただ訳がわかんねぇって言ってるだけで」
「申し訳ない」
「だから、なんでおめぇが謝んの?」
桂は答えない。仕方がないので、銀時は質問の矛先を変えてみる。
「じゃあよ、いつ替えたわけ?」
「いつ、とは?」
「おれにくれてやろうと思ってたから、倶楽部にまで作ったチョコ持ってきてたんだろうがよ」
「ああ」
「で、倶楽部に来る時にはもう別のチョコも持ってたんだよな」
さっきおれにくれたやつ、どこでどうしたんだ?と銀時が訊く。
「…かまっ娘倶楽部に行く途中で買った」
「で、あんなにギリギリに駆け込んできたわけ?」
「そうだ」
「てめぇん家から倶楽部までの間に何があったわけ?」
むーと桂は口を噤んだ。そしてまた、すまない、と頭を下げる。
それからは、銀時が何を聞いても桂は申し訳ないだのすまないだのの一点張りで、埒があかないままに二人は万事屋の前に辿り着いてしまった。


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