焦慮 3

「だてに長い付き合いしてねぇじゃん、おれたちは。それくらい判るって」
「ん?そうだったか?」
おーお、悪戯っぽい顔しちゃって可愛いのに、言うことはなんでそんなに可愛くねぇんですか。
「そうだよ!おれはヅラ君のことならあんなことやそーんなことや、どんなことでも色々判っちゃうんですぅ」
「ほう?」
ヅラはやけに挑戦的に片眉を上げてみせる。
「ヅラ君几帳面だからなんでもキチンと使い切るタイプだよね。包帯でも、一つ使い終わってから次の封を開けるよね?」
「…まあ…そうだな…」
うん、素直じゃん。
「じゃ、なんでまだ使えるのがあるのに、幾つも開封済みのがあんの?」
「志士たちに協力してもらって、急いでかき集めたゆえかもしれぬとは思わぬのか?」
往生際悪っ。それとも挑戦ですか、このやろー!
「それで同じメーカーのばっか集まるか?ないないない、それはないぜ、ヅラ。どうみてもまとめ買いっしょ?」
そもそも、おめぇが志士たちに真選組側についてたおれの為に、そんなの用意させようなんてするわけねぇじゃん。…って…え?おれ、今なにか怖いこと思いつかなかった?ねぇ?
ヅラはつい最近、こんな風に誰かの手当をした。その際、使っていく内に中途半端な長さしか残らなくなったものはとっとと諦めて、とっかえひっかえ新しいものを使った。なぜなら、そいつもやっぱ大怪我で、広範囲にあちこち巻く必要があったから。
これは十中八九間違いねぇ。普段のこいつなら、一巻き全部を使い終わってから次のを開ける。変なとこで馬鹿みてぇに几帳面だからな。
で、結果そんな中途半端なものが残ってしまっている…と○ナン君ばりの推理だとおれは悦に入っていたんだが…。
れ?違うな。
違うというか、何か足りない。
穴まであるぞ、そりゃ一体なんだ?
「ぽいんとは、なぜそんなせっかちな使い方をしなければならなかったか、ではないのか?」
ふふん、と言いたげな顔で真っ向からおれを見返してきやがるヅラ。
おま、またおれの頭ん中のぞいたんですかぁ?
「だてに長い付き合いはしておらんらしいからなぁ、お れ た ち は」
不審そうなおれに強烈な一言。ああ、もう憎たらしい!
「そりゃおめぇ…」
負けじと頭をフル稼働し始めて、すぐにおれは後悔した。
なんか怖い考えしか浮かんでこないんですけどぉぉぉ?
おそるおそるヅラの方を見ると、その綺麗な目には驚愕に目を見開いた情けない男の顔ーや、おれの顔なんだけどーがこっちを見ていて、めちゃくちゃ落ち込んだ。
ああ、そうですか。そういうこと。
そうだよな。中途半端な流さしか残らなくても、出来るだけ上手い使い方を考えて最後まで無駄なく使おうとするよね、常のおめぇなら。
それをしなかったってことは、ただ、出来なかったからに過ぎない。
なんで出来なかったのかというと、考えたり手間取ったりする時間が惜しかったから。手早くさっさと手当を終えるには、そんなことに構ってられなかったってか。
で、なんでそんなせっかちにならざるを得なかったかというと……いつ、おれが現れるかわかんなかったからだよな。現に今、ここでこうしているように。
なんてこった。
もういいや、これ以上追究するのはやめよう。だからおめぇも、おれを追及しねぇでくれ。
そう半ば祈るような気持ちで願ったのにー

「貴様とて、鉢合わせするのは嫌であろう?ん?銀時…」
…そうでしたね。抜けてるようで万事にぬかりないヅラ君は、とどめはきっちり刺すタイプでしたっけ。


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