焦慮 4

「で、どっちよ?誰を手当てしたの?」
「どっち、とは?」
わかってるくせに、白々しいねぇ。
「河上の方?真選組の方?」
ヅラはいかにも不思議そうに小首を傾げて、なぜ真選組なのだ?と訊く。
だぁーっ、解ってるくせに!
「大串がいるじゃねぇか、大串っていうか…その…土方だ!」
「土方?なんで土方?おれは土方にはこの家のことを教えてはおらんぞ?」
「マジで?」
そりゃそうか。
いくらトッシーがお気に入りとはいえ、あいつはあくまで真選組の副長には違いねぇ。
ヅラがそんな軽々しいことをするわけがねぇか。
じゃ河上の側の誰か、つまり高杉の息のかかった誰かってことか。
「マジだ。当然ではないか!奴は真選組だぞ?」
えーえー、そうですとも。
でも、その真選組の副長さんと懇ろなのはどこのどちらさんでしたっけ?だから、つい、ね。有りねぇとは思いつつもそこは確認しとかないと。
「しかし…」
なに?
気を持たせてヤな感じだなぁ、おい。
「トッシーには教えておいても良かったかもしれん」
おい、てめぇぇ!!
「なんだよ、それ!土方もトッシーも同じじゃんか」
「確かに同一人物なんだろうが、やはり違う。土方はこれっぽっちも可愛くないが、トッシーは可愛いではないか」
うわ、土方カワイソ。
必死になってトッシーを押さえ込んだのに、ヅラは相変わらずトッシーの方がお好みだ。
しっかし、相変わらずおめぇ変なもんが好きだねぇ。
突き詰めていくと、おれのレゾンデートルが危うくなるからやめておくけど…。それに今はそんなこと考察してる場合じゃねぇし。
「じゃ、ここに来たのはトッシー?」
土方が無理矢理押し込めたはずのトッシーは有り得ないと知っていながらかまをかけてみる。
「そんなはずがないこと、貴様よっく知っておろうに?それにさっきのは冗談だ。例えトッシーでも真選組には違いないからな」
なんかあったまくる!
心臓に悪い冗談を言うなっつーの。
「じゃ、河上の側?」
「さぁな」

ここまで引っ張ってきてそれぇ?
それはないんじゃない、ヅラ君?
「随分と不服そうだな」と言ってヅラは居住まいをただした。
ピンと伸ばした背中が美しい。それを見て、再び警報を発令し始めるおれの脳。
「奇遇だな、銀時。おれもだ」
その顔に張り付いているのは綺麗だけど氷のように冷たい笑顔。
錐でもたてたら亀裂が入りそうなくらいだ。
やべ。
おれの警報…全然役に立たなかったみてぇ…。
「…だろうね…」
ため息すら出てこねぇ。
なんでおれ、そんな当たり前のことに目を背けてたかな?
そうだ、さっきまで普通にしゃべってたんだよね、おれら。
なのに、なんでこんなことになっちまったかな。
やっぱ包帯の突っ込みが拙かった、ねぇ?
見て見ぬふりしとくのがよかったんですかねぇ。
好奇心猫を殺すっていうけど、おれの場合は嫉妬心ってやつなんだろうなぁ。
「銀時、なにか勘違いしておらぬか?おれは怒ってはおらぬぞ」
それ、マジ?
「不服だがな、怒ってはおらぬのだ」
「はいい?」
おれはまたしても間抜けな顔をしているに違いない。
「先ほど貴様、おれに謝ったではないか。忘れたのか?」
「え、覚えてるけどよ」
「おれはその時、仕事だったのだから構わぬと言ったはずだが?」

確かにそういう風なことを言ってくれましたね。ホッとしたから覚えてます、はい。
「あれは嘘などではない。ただ、不服ではあるのだ。これは仕方あるまいよ…」とヅラが話を続ける気配。
こいつが真面目なことを饒舌に語るのは珍しい。
自分の心情については特に。
おれは”誰を?”を追及したい気持ちをこの際見殺す、てか押し殺して、一言も聞き漏らさないよう耳を傾けることにした。


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