星宿 5

その強い口調に、土方は目を見張った。
何が違う?トッシーがおれに何が出来る?
「確かに、おまえのことを低く見てしまうものも少なくないだろう」
だがな、おまえらしい良いところはいっぱいあるぞ。
例えば、「変に体裁を取り繕わぬ処」
そう言って、ヅラ子は人差し指をピンと立てた。

「素直で」
次に中指を。

「思いやりがあって、時として驚くほど勇敢になれる」
薬指と小指が立てられた。

「よくは判らんが、他人に熱く語れる趣味を持つのはいい事だ」と親指が。

…褒められてるのか?これは?
体裁を取り繕わねぇっていうのは、周りが見えてねぇだけじゃねぇのか?
素直っていうのは便利な言葉だが、トッシーの場合、馬鹿ーって言葉に置き換えたほうがいいくれぇだろうが。
思いやりがあるってのはいいとしても、勇敢になるのが時としてって…そりゃたまたまトッシーじゃなくておれなんだよ!
最後のに至ってはなんなんだ!え?それははた迷惑っつーんだ!!

それでも、的外れで独りよがりではあっても、トッシーに対する桂の評価は良いらしい。

トッシーなんぞに嫉妬するのは馬鹿らしいと頭では理解していても、感情面は別だ。正直、面白くない。

「じゃ、土方氏は…」
だが、そう言いかけて土方は言葉を切った。
訊いてどうする?そもそも何が訊きたい?
桂が土方の事を良く言うわけがないと知った上で、何を?
「おれは呪いなど信じぬ」
「え?」
話が思わぬ方にとんだので、土方は思わず聞きかえしていた。
「だからな、おまえは呪いのせいで生まれたものではなくて、元々土方の裡に存在していたものが偶々強く現れただけなのだろうと思っている」

や、それはねぇだろ。
てか、ねぇ。
あって欲しくねぇ。
おれが元々ああいう要素を持っていただなんて考えただけでも落ち込んじまう。
「だからな、いつかは土方に返してやってはどうだ?おまえのその良いところ」
「返す?」
「おれは土方のことはよく知らん。知る必要もないと思っている」
あいつは真選組だからな、とヅラ子は言う。
正論だがあまりの言われように土方はただ沈黙する。
「だがな、トッシーと知り合ってみて思ったのだ。おまえのような男を裡にすまわせていたのであれば、満更悪い奴でもなさそうだ、とな」
土方は何も言わない。何も言えない。ただ、ヅラ子の話にじっと耳を傾け続ける。

「真選組副長土方十四郎ではなく、ただの土方十四郎は…」と言いかけて、その先をヅラ子は言わなかった。
「土方十四郎は?」
土方は話の先を促したが、ヅラ子はただ小さく首を左右に振った。
「言うまいよ、その先は。なにしろ真選組と奴を分けて論じることはおれには無意味だからな」
だがー
あいつはどことなくおれの友に似ているのだ。

呟やかれたその言葉は、土方に鋭い痛みとわずかな期待を与えておいて、すぐに闇に紛れて消え失せた。



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