春ごとに 花のさかりはー其のさんー

「ズラ子ですって?聞いたことがないわね」
「ズラ子じゃない、ヅラ子だ」
そんなん解るかぁ!
どこに違いがあるんだよ!発音一緒じゃねーか!メタっぽい展開はやめろよ!
「あなた銀さんのなんなの?」
「…幼馴染みだが」
「幼馴染み?なにそれ、なんなのよ!そのおいしい設定!ぽっと出のキャラのクセしてなんなのよ!!」
や、桂さん、さっちゃんさんより前に登場してますから…って僕にまでメタな展開を要求するのはやめて下さい!
それを言うなら桂さんは僕や神楽ちゃんなんかよりも、もっとずっと早くから銀さんの人生に関わってた人らしいんですから。
「ふん、幼馴染みだかなかんだか知らないけど、おあいにく様。銀さんはこの通りまだ夢の中よ。きっとあたしと一緒に過ごした熱い夜の余韻にまだまだひたっていたいんだわ」
「朝っぱらから変な妄想全開モードはやめて下さいよ、さっちゃんさん。か…ヅラ子さんは今日銀さんと約束があってこうやって迎えに来てくれたんですから」
「約束?約束ってなに?まさか結婚の約束なんて言うんじゃないでしょうね?」
「違うわ!そんなわけねぇだろう!!どこまで話を飛躍させれば気が済むんだあんたは!」
「これだけ騒いでも起きんとは…大夫酔ったらしいな」
なんであんたはそんな冷静なんだ!僕がこれだけ焦ってるのに!
「そうよ!銀さんはあたしという美酒にすっかり酔ってしまったのよ。もう起きても二日酔いよ、さっちゃん酔いよ!」
「嘘つけ!なんだよ、さっちゃん酔いって!あんた、その妄想癖なんとかしたらどうですか!」
「その責任をとって、今日はあたしが一日銀さんのお世話をするの、だから誰にも邪魔させないわ」
「さっちゃんさん、人の話聞いてます?」
「ふむ、そういうことなら仕方ない」
え?
「ではさっさん、銀時をよろしく頼む。新八くんもな」
邪魔をした。
そう言うと、桂さんは表情一つ変えずに部屋を出ていく。
本気で帰ってしまうつもりですか?
呼び捨て?銀さんを呼び捨て?なんなのよ、あの人なんなのよ!とブツブツ言うさっちゃんさんを置いて、僕は慌てて桂さんを追った。
桂さんは未練の欠片もない様子で、真っ直ぐ前を見て歩いている。
桂さん、とつい叫びそうになるのをすんでのところで堪え、僕は大急ぎで追いつきながら「待って下さいヅラ子さん!」と叫ぶことに成功した。
その声に桂さんが足を止めて振り返ってくれるのと、僕の後から「ヅラ子たん?」という声が聞こえたのがほぼ同時。
聞き覚えのあるその声に、なんとはなしに嫌な感じをおぼえて振り返った僕が見たのは、いつものオタクファッションに身を包んだトッシー!
な…んで?
なんでこうあり得ない程心臓に悪いことばかりが連続して起こるんだ!
しかも、僕の聞き間違いでなければ、トッシー、今ヅラ子たんって言ったよね?気持ち悪っ!
知り合いなの?ね、知り合い?あんたら仇敵じゃないんかい!
なにがどうなってるんですか、まったく。
トッシーと桂さんの間に挟まれて、二人の顔を交互に見ながら、僕の頭はパニック寸前だ。もう朝から何度目だよ、こんなの!
「トッシー?」
「ヅラ子たん!」
…なに?なんなんだよ?マジでおまえら知り合いかよ!
おかしいだろうがぁぁぁぁ!!!
もうやってらんねぇ!
でも、でも、何かが変だ。
なんだろう。
この二人が知り合いというのも確かに変だ。
けど、今僕が感じているのはそれとは違う奇妙さだ。
これは一体?
「おはよう、ヅラ子たん」
トッシーが嬉しそうに挨拶をしている。三次元だけじゃなくて一応二次元にも興味が出たんだね。良かった…んだよね?
それが例え女装の桂さんでも…ってそんなわけあるかぁぁぁぁ!!!
「トッシー、ヅラ子さんと知り合いなんだ」

ねじれて絡んで爛れきった人間関係を朝から見せつけられた僕はもうぐったりで、多少の揶揄を込めてそう言うのが精一杯。
「志村氏も?奇遇だねぇ」
そう言って驚いた様子を見せるトッシー。
だけど、違う。
判ったぞ。さっきから感じているこの奇妙さの原因が。

違うんだ。
なんてことだ。
僕はとんでもないことに気付いてしまった。
これはトッシーなんかじゃない。

今、僕等の目の前にいるのは土方さんなんだ。


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