春ごとに 花のさかりはー其のじゅういちー

「おめぇら、なんでいるんだ?新八はコンサート、神楽はお妙んとこに行くんじゃなかったのかよ」

散々寝坊して這い出すように起きてきた神楽ちゃんに朝食兼昼食を食べさせていたとき、銀さんがひょっこりと戻ってきた。
桂さんが一緒にいる気配は、ない。
「あんたこそなにちゃっかり戻って来てるんですか!桂さんはどうしたんです?」
「見つかんねぇ…」
「それですぐすごすごと戻ってきたアルか、このマダオが」
「んなこといってもよ、この時期、桜の咲いてるとこなんて掃いて捨てる程あんだぜ。そんなかから見つけ出せるわけねぇだろ」
いい加減だりぃんだよ。
「銀ちゃん、さいてーアル!」
じゃあなんで追いかけてったんですか、とは訊けない。
こんなこと言ってるけど、銀さんなりに探し回ったに違いないんだ。
「せっかく…せっかく…」
神楽ちゃんの唇が震えている。
せっかく。そう、せっかくつかなくても言い嘘までついて、銀さんに桂さんと一緒に過ごして欲しいと願っていたんだものね。
神楽ちゃん、口では銀さんのこと最低だのマダオだのと罵るけれど、いつも銀さんのことを心配してるんだ。そして、銀さんがみすみすその機会を逸した挙げ句、トッシーに桂さんをかっさわれたのが悔しいんだ。
僕もだよ、神楽ちゃん。
本当に残念よね。
でも、やっぱり一番悔しがっているのは銀さんなんだ、と僕は思うよ。自業自得といえないこともないけど、銀さん、本当に馬鹿なんだらしょうがないよ。 本当に馬鹿だから、今日のこと楽しみにしすぎて舞い上がりすぎて墜落しちゃったんだよ。そこは解ってあげようよ。
見た目、あんなだけど内心すごく落ち込んでるよ、多分。
「悪かったな、おめぇらにまで気ぃ遣わせちまってよ」
銀さんが、どことなくふて腐れたようにボソッと言った。僕と神楽ちゃんの底の浅い嘘がばれた証拠。 そして、その嘘に銀さんが感謝している証拠だ。この人は素直じゃないから!
それを聞いた神楽ちゃんも思いは僕と同じらしく、今度はその大きな目に涙を溜め始めた。唇の震えもひどくなってる。
銀さんも、そんな神楽ちゃんを見てしまうとさすがに罪悪感もひときわ深まるのか、あー、うー、とかけるべき言葉を一生懸命捜しながら狼狽えている。
「まぁ、ヅラのことなら心配ねぇよ」
やっと出た言葉がそれぇ?
「どうしてそう言えるね?トッシーだって真選組ある!」
土方さんが、トッシーが桂さんを好きらしいということを神楽ちゃんは知らない。銀さんに言われた通り話してない。だから、敵同士の間柄を心から心配してるようだ。
「それに、最近の銀ちゃん変だったね。ヅラと色々話せば少しはマシになるかと思ってたのに」
いつも変だけどナ、と憎まれ口も忘れないけど、言葉の節々に銀さんへの想いがにじみ出ている。
「だぁかぁら、心配ないって。外、雨降ってきたから」
「だからなんネ?」
「花見は強制終了だ。ヅラも真選組相手にはいつもみてぇな馬鹿やらかさねぇから、さっさと戻ってくるって」
ここにいればな、と銀さん。
なぁだ、それで帰ってきたわけですか。だりぃ、なんて言っておいて。桂さんがここに戻ってくると解っているなら闇雲に探し回るより万事屋で待っている方が確実に会える。
その答えを聞いて神楽ちゃんがホッとしたのが僕にはよく解った。だって、僕も同じ思いだから。
「よかったね、神楽ちゃん」
「新八もな」
「や、新八はよくねぇだろ」
「なんでだよ、何でそんなこと言うんだよ!」
「だって…外雨だし…」
ああああ!洗濯物!
「あんた、そんな大事なこと何でもっと早く言わないんですか!ていうか、雨だって知ってるんだから取り込んで下さいよ!」
「ギャーギャー言ってる暇があったらさっさと片付けて来いや、濡れちまうだろうがよ」
なんて奴だ!
そう思いながらも、でも僕は嬉しく思わないでないられない。 銀さんだ。
いつもの銀さんだ。
桂さんが訪ねてくることをこれっぽちも疑ってない。
だから
こうやって減らず口をたたいてる。
だから
桂さんはきっと来る。
銀さんがこうやって待っているんだから。
さぁて、気を取り直して、さっさと動くことにしよう。
神楽ちゃんの食器を洗う前に、まずは洗濯物を救出しなければ!


戻る次へ