「縁 5」
「頼む、ヅラ。かわりに出てくれ!」
呼び出し音と、おれを蹴飛ばしたことで目を覚ましたらしい桂に頭を下げた。
一生のお願いだから!
「貴様、一生のお願いを使うのはこれで何度目だ?六度目だぞ?」
よくまぁそんな細けぇこと覚えてるよな……。
「最初は、あれだ。おれの元服の時だ。貴様、あの時……」
「だぁーっ!いいって!今そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ」
早くしねぇと神楽が起きちまうだろうが!
む。それはいかん、と飛び起きて、居間に向かう桂。
嘘だけど。
神楽なんて、いっぺん眠っちまったら嵐が来ようと雷が鳴ろうと起きねぇけど。でも、そうとでも
言わねぇと動いてくれそうもないのが情けない。
銀さんより神楽ですか、そーですか。
桂が受話器を上げたらしく、呼び出し音が鳴りやんだ。
「はい、桂です」
ここは万事屋だ!てか、なに名乗ってんだよ、あの莫迦!
内心激しい突っ込みを入れたのも束の間、耳を欹てていても、それっきりなにも聞こえてこない。
えーと。
どうなってんのかな?
やがて。
「銀時」
囁くような声で呼ばれた。
って、なに呼んでるの?
小声で気ぃ遣ってくれてるのは解るけど、なに呼んでくれちゃってるの?
電話の相手からのご指名、とか?
いやいやいや、ないわ。それもないわ。やめてよ、そういうの。
「大丈夫だ、来てみろ」
は?なにが大丈夫なわけ?それってどこからくる自信?
ここから動きたくないんですけど。
もう布団と結婚してもいいくらいな気持ちになってるけどね、おれ。
「早く来んかぁ!」
あ。やべ、キレかけてらぁ。
スタンドもやばいけど、怒った桂はマジでやばい。
前門のヅラ、後門のスタンド。なれば、ヅラ一択しかねぇじゃん。
嫌がる足を必死に動かして居間へ入ると、受話器を持ったままの桂がおれを手招きしている。
「なんだよ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「それはもういいって!なんで受話器置いてねぇんだよ?」
置けよ、そんなもん。
「なにも聞こえん」
「あぁ?」
「なにも聞こえんのだ」
無言電話、というやつらしい。
それもそれで充分嫌じゃね?どこの誰がそんなのかけてくんだよ?
「少なくともスタンドからのらぶこーるではなさそうだ」
だから、貴様も出てみろ。
無茶言うな、と渋るおれに、大丈夫だ、おれがいてやるから、と桂。
なんでそんなに偉そうなんだよ。
仕方がないので渋々受話器を受け取るとー
ほんとだ、なにも聞こえねぇ。
あー、なんかどっと疲れた。
こんな夜中にたちの悪い奴がいたもんだ。
胸くそ悪ぃ。もっかい寝るか。
そう決めて受話器を置こうとしたら、タイミングを見計らったように、また呼び出し音が鳴り始めた。
待て。
待て、待て、待て!おかしいだろ!絶対変だろ!
おれまだ受話器置いてないんですけどぉぉぉぉ?
なんで今鳴っちゃうわけ?
予想外の成り行きに呆然とするおれを尻目に、桂が横から受話器をひったくってくれた。
一体何をするつもりなのかと見守るおれの前でー
「もしもし、わたしリカちゃん。お電話どうもありがとうね(桂裏声)」
やっぱ莫迦だろ。
礼を言う奴があるかぁ!またかけてきたらどうすんの?
しかもリカちゃんってなんだよ、ああ!?
知ってたけど。昔から知ってるけど、おまえ本気で莫迦だよね!
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