「縁」8

顔の輪郭やら眉の形やら、そりゃ細かく訊かれてうんざりしたもんの、絵師と二人粘ること数時間、できあがった似姿は、にくったらしいあの男の特徴をよく捉えていて、おれはさすがプロの仕事、と素直に感心した。

「旦那、こいつ一体なにやらかしたんで?」
完成した似姿をサド王子がちらりと横目で見る。

なにげに訊いた風に装っていても、内心興味津々なのはバレてんだぜ?

「うん、ちょっと見かけて気になっててよ」

ヅラ絡みーほぼ100パー間違いないとおれは睨んでるーだ、こいつを関わらせると面倒なことになる。
なので、おれも白々しくも 何気ない風を装う。
こいつら頼って、こんなもん描いてもらってる時点で何気なくもねぇもんだが、そこはそれ、お互い承知の上での化かし合いってやつ。

「いつ見かけたってぇんですかい?」
「んー、昨日とかね」

自分で言ってて嫌になるわ!なに、それ?不自然すぎじゃねぇか!
でも、ここんところ毎日のようにお会いしてます、なんて言えねぇし。
……にしてもえらく食いついてくるじゃねぇの。

「へぇ……そりゃまた珍しい」
「え、なんで?総一郎君、こいつ知ってんの?」
「おれなんかより、旦那のほうがご存じなんじゃ?」
「はぁ?自慢じゃねぇけど、おれ割と人の顔とか名前とか覚えるの得意だけど?客商売なめんなよ」
だから、こうやって似姿もつくれるんだけど、そもそも知ってる奴ならこんなとこに来ねぇよ。
「こんなところとは言ってくれやすね。それに、おれのことを総一郎と言い続けてるお人が言ってもねぇ、説得力が皆無でさぁ」
ーでも、朝の様子じゃ本当にせっぱ詰まってるみてぇなんで、教えてあげまさぁ。
その男はー

「新聞配達員?なにそれ」
「知らねぇんですかぃ?各家庭に毎朝、毎夕新聞をー」
「んなことは知ってますぅ。なんでそんな一般市民をおたくが知ってんのかって訊いてんだけど?」
「いえね、こいつの担当区域が丁度万事屋周辺でして」
ーだからてっきりご存じかと。

「知らなかったっつってんじゃん。それより、こいつとおたくらとどういう関係が?なに、もしかしてウチを張り込んでしょっちゅう見かけてるとかそういうの?やめてよね、おれ善良な一般市民なのに」
「旦那ぁ、一度、”善良”って言葉、辞書で調べ直した方がいいですぜ」
「なに言ってくれちゃってるの?それともなに、ゴリラだけじゃなく、総一郎君もストーカーの気があんの?」
「違いまさぁ、そもそもおたくにはストーカーしたくなるような別嬪さんはいねぇでしょうに」
たまにしかーそう付け加えて、にやりと笑った。
わわ、やな感じ。

「そんなこと言えるの今だけよ?うちの神楽ちゃん、あと2年もしたらすごいことになるよ?」
「そんなことぁ知ったこっちゃねぇですぜ。少なくとも今、小便くせぇガキにゃ興味ねぇんで」
「……で?ぶっちゃけなんでこいつのこと知ってるの?」
なんだか嫌な方向に流れていきそうだし、これ以上続けても不毛なだけの会話を終わらせるべく、話を強引に元に戻した。
「言っていいもんかどうかちょいと悩んじまうところですが…ま、ちょいと調べりゃ誰にだって判ることですし……」
え、この子、なんでここでそんな嬉しそうな顔すんの?
やっぱ聞かない方がよくね?

「ちょ、待って、総一郎君!心の準備…」
「数日前に事故死してるんでさぁ、そいつ」
あー、言われちまったよ。

管轄外のことなんで、詳しくは知りやせんし、丁度大物ー桂程じゃねぇですがー攘夷浪士がとっ捕まった日で、そんなに報道もされてませんでしたがね、 なんでもそいつ、おれとおない年とかで、土方の野郎が「てぇめと同い年でこっちは苦学生か。いい奴ほど早死にするってなぁ本当だな」なんて嫌みったらしく 言いやがりましてね、それで覚えてるんでさぁー

おれはもちろん、そんな長ったらしい話をちゃんと聞いちゃいなかった。
だって、本物確定じゃん。
マジもんのスタンドじゃん!
どうするよ、おれ。
どうすりゃいいよ、おれ!?





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