「縁」 10
んだよ、馬鹿馬鹿しい。余計な手間かけさせてんじゃねぇよ。
ばこっ。
腹が立ったので、軽く(?)頭を叩いてやった。
「痛いではないか!」
小気味のいい音を立てた頭を抱え、涙目になった桂が口をとがらして抗議するが、知ったことか。
「てめぇのおかげでどれだけ時間を無駄にしたと思ってんだ、ああ?」
ーおかげでサド王子に痛くもねぇ腹探られるし、ここ数日外へも出れねぇし、さんざんだったじゃねぇか!
「それはそれでよいのだ」
「なにがいいわけ?てか、あれってなんだよ?」
「少しは飴を与えておかねば、しれっと介入されても困るであろうが」
「……それって」
「真選組の悪ガキだ」
「はぁ?総一郎君?なんで、え、え?なんで?」
「てか総一郎って誰だ。総悟ではなかったか?沖田総悟」
……ご丁寧にフルネームですかそうですか。
なんかうぜぇ。
けど、思いかえしてみれば、絵師を紹介してもらうときに総一郎君、なんか妙なこと言ってやがったような……。
確か……「なぁんか面白そうなことになってそうなんで」とか?
いやいや、違うな、それじゃねぇ。や、それも変な言いぐさだとはちらっと思ったけど、おれの様子が変だったからーともとれるしな。ほんと、変だったもんな、おれ。今でも変だけど。
あー、やっぱ違う。それじゃねぇ。
他にもっと引っかかったことがあったようななかったような……?
完成した絵を見て、あの男のことをおれの方が知ってるはずみてぇに言われて、ちょっと見かけただけっつったら、珍しいとかなんとか言われたんだよな。
それからー?
それから?
そうだ!思い出した!
あいつはこう言ったんだ。
「今朝の様子じゃ、本当にせっぱ詰まってるみてぇなんで……」
どう考えてもおかしくね?今朝って、似顔絵師を紹介してもらいに行った日の朝のことだよね?
なんで総一郎君がそんなこと知ってるわけ?
考えることを放棄して目の前の莫迦に目をやると、軽く肩を竦めて「電話でばれた」と言いやがった。
あれか!あれ、総一郎君だったのぉぉぉぉぉ!?
一体なんの用があって電話なんてかけてきやがったんだ?
こわ。やっぱストーカーなんじゃねぇの?
にしても。
ボコッ。バキッ。ドカッ。
「いたっ、たたたたたた!」
「ったりめぇだ。痛くしてんだから。おまえ、本当に莫迦だな。例え攘夷が失敗しても歴史に名を残せるんじゃね?その桁外れの莫迦さ加減でよ!」
「貴様、不吉なことを言うな!」
「不吉なのはてめぇの存在だろうが」
あー腹立つ。むっちゃ腹立つ。
「もっと殴らせろ、痛くするから!」
「痛くするってなんだ!普通は痛くないとか言うものではないのか?」
「てめぇのどこに普通という言葉が当てはまるんだ!いいから黙って殴られろや!」
「ふざけるな!」
「ふざけてるのはてめぇらだろうが!なんで総一郎君と仲良しこよしでお話してんだよ!」
「あれのどこが仲良しこよしだ!貴様、髪の毛と根性だけではなく、外耳道までねじくれておるのか!」
「知るか、そんなこと!」
桂の言うとおり、仲良しこよしなんていう会話じゃなかったのは知ってる。
こいつが言ってたのは「黙れ!」だとか「い加減にしろ!」とかだったもんな。むしろ、悪戯電話にキレてる感じではあった、確かに。
でもよ、宿敵(だろ、一応?)相手にのうのうと会話を続けたあげく、いつ踏み込まれるかも判らねぇのに逃げも隠れもしないってどうよ?
おたくら、なぁなぁの間柄ですか、じゃれてるんですか?って思われても仕方なくね?
こいつもこいつだが、総一郎君も総一郎君だよね。
あー、腹立つ。てか、むかつく。てか……
「やっぱ腹立つんですけどぉぉぉぉぉ!!!!!」
「黙らぬか、やかましい!」
さっき殴られた仕返しだろう、桂のアッパーがおれの顎にクリティカルヒット。
「痛ぇ!舌噛んじまったゃねぇか、莫迦ヅラ!」
「莫迦じゃない、ヅラでもない、桂だ。とにかく悪いことは言わん、お祓いするぞ、お祓いだ!」
そう言うと桂は足取りも軽くさっさと部屋から出て行ってしまい、
玄関先から「日取りが決まったら知らせるからなー!」と叫んだ。
「電話はよせよ、おれ、何があっても出ねぇからな!」
「文で知らせてやる」
どこまで本気か解らない返事を残して桂が消えると、おれはまた一人ぼっちになった。
一日千秋の思いで待ち続けた桂からの知らせは2日後に届き、おれを心底ほっとさせてくれたものの、そこに記された日時になっても
来るはずの迎えが誰一人として姿を見せず、結果、おれを孤独と恐怖のどん底にたたき落としただけだった。
なぁにがエリザベスと一緒に車で迎えに行くからそこでおとなしく待っておれ、だ。
ヅラの大嘘つき!莫迦!禿!
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