小夜終 漆

「わっ」
「確かに声を出せとは言いやしたが、そんな色気のない声を出されても別に嬉しくないですぜぇ?」
いきなり片足を掴まれ、沖田の肩に担ぎ上げたので思わず上げた声が気にいらなかったらしい沖田が不平を漏らす。
おれの知ったことか。
「何故、貴様を喜ばせなくてはならん!」
そう言う間にも、今度はそのまま膝頭を自分の肩に付きそうな位置に折り畳まれてしまう。
「あんた、体柔らかいですねぇ」
こりゃ、あれこれ楽しませてもらえそうだ…とクツクツ笑う。この、悪魔が!
片足が肩に乗せられているので、閉じられていないままの下肢が布越しに触れ合う。
まるで炭火のように熱く火照っている沖田のものを感じる。沖田は、まるでその熱をわざと教えるように、 擦れ合っている腰を上下にゆっくりと揺らしてみせる。
そのゾッとする感触に虫酸が走る。
「…なんか、ここ、押し返してきてやすぜ?なんでしょうかねぃ、これ?」
そう言いながら、下着の上から触れてくるのはキッパリ無視だ。
「ふん、いいでしょう。それくらいでないと楽しめませんや」
「さっさと犯って、さっさと終わらせろ」
楽しいのはおまえだけだろうに。おれは早く解放されたいだけだ。
「どうしてですかい。夜はまだ始まってもないんですぜ」
言われて初めて周囲がほんのり薄暗くなっていることに気付いた。
では早朝ではなく、夕刻だったのか、とこの場にそぐわないことを思う。
「ひっ、ひあ!」
心ならずも甲高い声を上げてしまったおれの耳に、やれば出来るんじゃねぇですか…と嬉しそうな声。
うっかりよそ事に気を取られていたせいで、下着の中に手を入れられたことに気付くのが遅れてしまった。
そのまま無造作に掴まれ下着の外へと引っ張り出され、口腔内に捕らえられる。
喩えようもなく熱い。
「うぁっ…あっ…」
敏感になっている部分にさらに強い刺激が送り込まれる、さぁ、どうだといわんばかりだ。
拘束された不自由な手で敷布を握りしめ、歯を噛み締めてはいるが、堪えきれない声がかすかに漏れるのが口惜しい。
「あんた、意外と踏ん張りますねぇ。じゃ、これでどうです?」
沖田は一度口を離してそう言うと、再び中心部を含んで舌で嘗め回し、時折、わざと音をたてるようにしゃぶりついて さらなる刺激を送り込んでくる。沖田も意地になっているらしい。
その音に反応するかのように自分の中心に熱が集まってくるのを感じ、急いで体を弓なりにすることで熱を逃がそうとするが、傷が痛んで思うに任せない。 なんと歯痒い。
せめて、せめて両手が自由なら…。
「くそ!」
つい、苛立ちを声に出し舌打ちしてしまう。
無言でいてやるのが一番こたえるはずと解っているのだが…。
「まだまだ…余裕ですねぇ。それに、そんな可愛げのない言葉は聞きたくありやせん」
目に不穏な光を湛えた沖田が、おれの先端に指先を押し当て、軽く抉るように刺激しながら根元から先端に向けて、指できつく締めて擦り上げられる。
「………っ………」
耐え続けるのが、かなりきつい。
「随分滑りが良くなってきやしたぜ。体の方は割と素直な質じゃないですかい?」
「…ぁ……おお、きな…おせ、わ…だ……」
理性が飛んでしまいそうになるのを必死で押しとどめ、渾身の力を込めて押し寄せる快楽の波に抗う。
まだ、いける。まだ、耐えられる。

黙ったまま、沖田がおれをじっと見据えている。嫌な予感は的中するものだ。もう一度おれ自身をカプリと咥え直すと遠慮無しに歯を立てやがった!
「うあぁっっ!」
与えられた強い刺激にあっけなく放った熱は、そのまま口内で受け止められた。嚥下するかと思いきや、おれの口を強引にこじ開けて、口移しで飲まそうとしやがる。どこまで悪趣味なんだか。
……ほっ…ぐっ…うっぅ。少量とはいえ、仰向けのままで嚥下するのはさすがに噎せる。その苦しさは尋常ではない。
けほけほと空咳を繰り返してみるが、まだ喉に異物がへばりついている気がして吐き気がおさまらない。
「その声も、あんまりそそられるもんじゃありやせんねぇ…」
残念そうに眉根を寄せている沖田の顔を見て少し溜飲が下がる。興醒めでもしているのだろうか。
そうであれば、苦しい思いをさせられたが、いいざまだ。貴様などせいぜいがっかりしておればよい。
なのに。

「でも、その目にはそそられまさぁ」
と耳元でどこかうっとりと呟やかれうそ寒い思いを味わわされる羽目になろうとは。


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