「ニルアドミラリの喪失」2

「ふっ…ぅ」
聞こえよがしに切なげな溜息を一つつけば、案の定、簡単に銀時の気は削げた。

何ごとかと様子を窺っているだろう気配をひしひしと全身で感じながら、桂は次に力が抜けたかのようにコクリと頭を傾げてみせる。

顔にかかった幾筋かの髪を気怠げに払うと、そのまま眠りこけるような体勢に入ってみた。

「えっ…ちょ…」

慌てた銀時に幾度か身体を揺さぶられてから、やっと辛そうにわずかばかり瞼を開いた。

そうして、ひどく頼りなげな声で呟いてやる。

「も、う…無理、だ」、と。

泪の一つもこぼせば完璧だったろうが、そう上手くは出来ない。

すぐ瞼を閉じて眠たげに振る舞うので精一杯だ。


「おい、待て、こら、おい、ヅラぁ!」

お決まりのヅラじゃない、も返してやらない。


さぁ、どうする、銀時?

してやったりと、どこか高みの見物を決め込んでいた桂だったが、銀時が両足首に手をかけたことにより、 形勢が一気に逆転したことを悟った。

思わず目を開けなかった自分を褒めてやりたい。

うっ、わ…よ、せ…!

喉まで出かかった抗議の声をやっとの思いで呑み込んだ。
それでも、 銀時の動きがもっと緩慢であれば、耐えきれずに起き上がってしまっていただろう。

が、幸いにも銀時の動きが速く、小芝居がばれるという失態を演じることだけは免れた。

「いっ…つ!」

覚悟はしていたが、思い切り両足を広げられて股関節は痛み、苦痛で顔が歪む。

「き、さま…」

「どう?目ぇ覚めた?」

銀時はにやにやと嬉しそうだ。
完全に主導権を握り直して余裕を取り戻したものらしい。

「覚めるわ!」

「ひょっとして痛いとか?」

「あ、たり…まえだ」

「そ、悪ぃけど、いい眺め」

うっとりと言われ、桂の背中が粟立つ。


「でも、見てるだけじゃ物足りねぇな。おめぇもそうだろ?」

銀時の和毛が下腹部をかすった感覚に身を捩りかけた刹那、桂のものは根元深くまで咥え込まれいた。

「はっ…や、め…」

舌と唇を巧みに使われての強すぎる刺激に、当初の目的から外れた言葉を口に出し始めていることにも気付けない。

「あっ…っひ…ぃっ……あ、はぁ、ああっ、ん、は、ぁ…」

絶え間なく責められ続けると、あれほど堪えていた嬌声すら間断なくまろび出てしまう。

二度、三度と達し、さすがに精魂尽き果てかけると、気ばかりが焦るが、銀時はまだ口唇で愛おしむことを止めない。

気に入ったら何度でも同じことを繰り返して楽しむ。
やはり、やることが子どもと同じだ。

ば、か野郎!
姦るならとっと姦れ!

内心言葉汚く罵りながら、それでも身体はもっと強い刺激を求め、桂の背中が撓る。

それを頃合いと見て取ってか、銀時はようやく桂自身を解放すると、指でその最奥、ひっそりと隠れている小さな蕾を探し始めた。

ようよう辿り着くと、その襞の一つ一つを確かめるようにゆっくりと指を這わす。

「いあ、っあ!」

背筋を這い上がるような感覚に、桂の肢体がビクリとはねると、銀時の指がつぷりと音をたてながら体内へ入ってきた。

くちゅくちゅと淫猥な水音をたてながら、ねじ込むようにゆっくりと分け入れる。

「うっわ、ヅラ君きっつ」

違和感にきゅっと眉根を寄せて怺える桂を余所に、銀時は楽しげに侵入を続け、二本、三本と指を増やす。

「ひっ…うぁあっ!」

増やした指の分だけ力強く攪拌され、内壁を抉られ引っ掻かれ…その都度はねる痩身はきつく抱きしめられて一切の自由を奪われる。

そのくせ、
「なぁ、力抜いとけよ」などと無茶を言う。

出来るか!

その一言さえ言えず、頷くことも出来ず、桂はただ銀時に全ての体重をかけ、一切を預けることを選んだ。


「くっ…」

やがて。
散々に解された小さな窄まりに、先ほどまでとは比べものにならない圧倒的な質量をつ銀時自身が分け入ってくる。


引き裂かれそうなその痛みの全てを、桂は独り静かに耐えていた。




「…ぅん…ぅっ。あっ。あ…ぅ、ん」

意味を成さない言葉が零れ、部屋の中にわずかに響いては消えていく。

銀時の怒りを静める為だけに差しだした我が身のはずが、いつの間にか自ら熱を持ち火照っている。

怒りを受け止める。どんな苦痛でも、銀時に与えられるものであれば全て。

その覚悟でここにこうしている以上、与えられているのが苦痛ではなく快楽であったとして、何か悪いことがあろうか?
もう、賽は投げられたのだ。あとはなすがまま。

自分の企みはほとんど成功したと言えよう。

もう全てを放棄し、銀時に託せてしまってもよいのだ。

半ば痺れかけている頭の片隅で、桂はそう結論づけると、肉体だけでなく、思考もなにもかもをひっくるめて堕ちるに任せた。




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