「信じられねぇ……」 銀時が思わずといった風に洩らした。 笑わせてくれる。 一体なにを信じていたのかは知らんが、そんなものは全て貴様の「勘違い」だ。そうに決まっている。 「なぁ、おれは……おめぇは……おれたちは一体なんなの?」 ずい分唐突な問いだが、さて、なんと言えばいいものか。 幼馴染み、竹馬の友と言える。戦友と言っても差し支えないだろうし、かつての同志と言えなくもない。 思ったままを挙げてみただけなのに、銀時はまた呻くように声を荒げる始末。 「間違ってはおらんだろうが。なにが不服だ!?」 問えば、吠えた。 「おめぇのいうことはみぃんな昔の話じゃねぇか!おれが訊いてんのは今の話だ。今のおれらだよ!」 「昔も今も幼馴染みには違いなかろう」 「おれの言いてぇのはそーゆーことじゃねぇんだよ!」 「駄々っ子か、貴様」 つき合いきれん。 おれの洩らした溜め息に毒気を抜かれたか、銀時もまた大息を吐き、頭をがしがしと掻く癖を披露したと思えば、やおらおれの両肩を掴んで正面から見据えてきた。おれは知ってる。紛れもなくこれは凶兆の一つ。 「なぁ、おいヅラ」 感情を押し殺した低い声。暗いままの双眸に滾る焔がちらちらと見え隠れしている。これも凶兆。なんとも……薄気味悪い。 「てめぇの言う仕事とやらをおれに言ってみろ」 刺すような眼光が真っ直ぐ射貫くようだ。が、それがどうした。 「どこから聞きたい?」 こちらも真っ直ぐ見返してやれば、銀時がたじろいだ。他愛ない。 「そうだな、ゆうべはー 「あー、もういい! 黙れ!」 ほんの鳥羽口で止められた。なら、端から訊かぬがよい。 「話は終わりか? では、もう帰れ。おれは疲れている」 ようよう無意味な遣り取りから解放される、そう思った。 「貴様、いきなりなんだ!? 離せ!」 ヅラは散々疲れていると言いながら、抵抗を止めない。 「黙ってろっつってんだろーが!」 性懲りもなく背を向けやがったので、カチンと来て襟首をつかんだらこの騒ぎだ。 やっぱこいつ莫迦。なにを勘違いしたかは知らねぇけど、話は終わっちゃいねぇってーの。 「離せと言っておるだろうが!!」 「こっちは黙れって言ってんだよ!!」 無理矢理引き摺り上げようにも、こいつの馬鹿力で暴れられちゃ、さすがのおれでも手こずるってもんだ。 だからー殴った。思いっきり、2発。 それでも、ヅラは暴れ続けるし、むしろさっきより激しく抗ってきやがる。 あーあ。もっと強く殴っとくんだったぜ。 「どうしたぁ、ヅラぁ? さっきまであんなに入りたがってた家じゃねぇか。だから、引き上げてやるって言ってんだよ!遠慮すんな!」 まだ気付いてねぇのか!? 話は終わってねぇんだよ。おれは怒ってんだからな。ああ、ぶちキレてらぁ! 「そんなに嫌なら、おれはここでも全然構わねぇぞ、ヅラ。ここはちっとばかり冷たそうなんで、一応気ぃ遣ってやってんだけどよ」 脅しが効いたか瞬間莫迦が動きを止めた。 逃すか! すかさず上がり框に放り上げた。 「痛いではないか!」 頭をさすりながら、それでも睨む余裕はあるらしい。 起き上がろうと突っぱねる腕は払い、押さえ込んだ背中に跨って床に押しつける。 「お……ぅわっ、よせ!」 重いーという言葉はすぐに制止の言葉へと変わった。 そりゃそうだ。 いつ人が来るかわかりゃしねぇ玄関先で、男にのしかかられた挙げ句裾をおっぴろげられた日にゃ、誰でも暴れる。誰でも喚く。 それでも、この期に及んで止めるなんて選択肢はおれにはこれっぽっちもないわけでー。 「ああ、もう! じっとしてろや!」 おれを無視し、しぼるように捩りながら逃れようとする莫迦の腰はがっちり捉えて離さねぇ。 「怪我したくなかったら動くんじゃねぇぞ」 脅しながら力尽くでさらけ出させた蕾はぬめぬめと光っている。 それでもーと。 万が一を信じて触れてみた指先は、ものほしそうな蠢きを誘い全てを暴き出した。 ……そういうことかよ。 知ってたけどよ。 解ってたつもりだったけどよ。 そんでもよ、やっぱり気付きたくなんかなかったし、知りたくもなかったんだよ、おれぁ! 怒りのままに突き入れた指は、まだかすかに濡れて柔らかく解れたままのそこにあっけなく飲み込まれていく。 なんでだよ? なんでこんなことやってんだよ? な、んで!? |